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日記の行方

後日、私は王子殿下──名前をクリストファー殿下というらしい。

彼に呼び出され、登城していた。


応接室に通されると、程なくして殿下がやってくる。

彼は私を見ると、優雅な笑みを浮かべた。


「待たせてしまってすまない。ようこそ、王城へ」


クリストファー殿下は、私の対面に座った。

ちなみに、私の装身具は特急で修理を進めているらしく、まだ手元には届いていない。

異能制御装身具は、そう簡単に量産できるものでは無い。造りも複雑なようで、すぐに作成できるものでは無いようだ。

そういった経緯もあって、私は未だ、異能制御装身具を身につけていなかった。


(だから、異能がふたたび使えるようになってから今まで、私は色んなひとの色んな本音を聞いてきたのだけど……)


この異能は制御できるものでは無いのか、寝ている時以外は自動的に発動するのである。

発動の条件は、相手の目を見ること。


基本的に邸内で過ごしていたために、精神的に害はなかったが、それでもとんでもなく疲労した。

公爵邸に仕えている使用人と家族が、私に悪感情を抱いていなくてほんとうに良かった。

もし、関係がうまくいってなかったりしたら悲惨だっただろう。


目を合わせれば、相手のこころの声が聞こえてしまうのだから。


こころの声は容赦ない。


だいたいのひとは、思考を声にする時。

相手を慮ったり、気遣ったり、相手に配慮した言い方をするはずだ。


しかし!!

とうぜんだが、こころの声にはそれがないのである。


強制的に聞こえてくるこころの声は防ぎようがなく、王城(ここ)に来るまでの間も、とんでもなく疲労した。

ひとの目を見なければそれでいいのだが、見ないようにしても偶然目があってしまったりするのである。

怒涛のように流れてくるこころの声に圧倒されることが何度あったか……。


だから、クリストファー殿下と会ったら目を合わせないようにしなければ、と気をつけていたのだけど。


「シャーロット嬢。私の目を見てごらん」


「あの、私の異能が」


「知ってる。その上で言ってるんだ、私は」


王家と、異能管理をしている神殿は、届出が出されている異能については把握している、らしい。これはお父様から聞いたことだ。


殿下が目を見ろ、というのだ。

何か考えがあるのかもしれない。


そろそろと視線をあげると、彼の薄青の瞳と目が合った。


だけど──。


「あら……?」


「聞こえないでしょう。私の異能は少し変わり種でね。他人の異能を無効化するといった異能(もの)なんだ」


「そ……!そんな重要な秘密を私にお伝えになられてもいいのですか?」


そんな異能が存在することすら初めて知ったが、それ以上にそんな重要事項をただの貴族令嬢の私に伝えてもいいのかと私は焦った。

狼狽えた私を見て、彼が茶目っ気を見せて笑みを浮かべる。


「初めてあなたに伝えた時も、そういっていたよ」


「そ……うですか」


突拍子もない彼の行動に唖然としたが、それは過去の私もおなじだったようだ。

それから彼は、続けて言った。


「そうそう。あなたに伝えているのも理由があってね。というのも──」


そこで、彼は言葉を切る。

そして、先程とは打って変わって鋭い眼差しで、私を見つめた。


「ねえ、シャーロット嬢。あなたはまだ、ジュリアン・ザイガーと婚約関係にある?」


「え?は、はい。といっても、既に婚約解消に向けて話を進めていますが……」


ジュリアン様が出ていったあと、私はその足でお父様を訪ねたのだ。

お兄様経由で話を聞いていたらしいお父様は、あまり驚かなかった。


でも。


(とにかく、すっ……ごい、確認されたのよね……)


ほんとうに婚約は解消してしまっていいのか。後悔しないか。

記憶が戻ったら後悔するんじゃないか?


そんなことを再三にわたり確認された。

お父様の気持ちも、もちろんわかる。


私がねだってねだって、どうしても!とお願いして、結ばれたこの婚約。記憶が無いからと言ってそんなかんたんに解消して構わないのか、心配にもなるだろう。


でもね、お父様。


ほんとうに私を大切に想ってくださるのなら……!!

ジュリアン様との婚約はさせない方が良かったと思いますのよ……!!


婚約中はともかくとして、このまま彼と結婚なんかしたら。

苦しい思いをするのはシャーロット(わたし)だ。


仲睦まじい兄妹(しかも血の繋がりは無い)を見ながら、金銭だけを提供する日々。


うーん……。

考えただけで、遠慮したい……。

願い下げだわ!


そんなわけで、私はお父様を説き伏せて婚約解消の話を進めてもらった。

そもそもこの婚約は、私の一方的な恋情によって締結されたもので、政略的な意味合いはない。


こちらにはジュリアン様が押し付けてきた請求書の束があるのだ。これを持って出るところに出れば、ジュリアン様だけでなくザイガー子爵家そのものの立場が危うくなることだろう。

過去の私は、彼らの金銭的な面倒を見ることに納得していたのかもしれないけれど。


今の私は、まっ……たく納得しておりませんので。


自分の支払いくらい、自分でめんどうみろっていうのよ。


お父様との会話を思い出していると、クリストファー殿下が憂鬱そうにその青の瞳を翳らせた。


「そっか、状況は理解した。それで、シャーロット嬢。あなたは日記を見つけたのかい?」


だけどすぐ、話を転換し、本題を切り出した。


今の……。一瞬、物憂げな様子に見えたけれど。

気のせいだったのかしら……?

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毒を飲めと言われたので飲みました。
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