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9話 ツーリングのお誘い、新たなバイク乗り

怪我も治ってきたので活動を再開したいと思います。

遅くなってすみませんでした。そして今回は短めです。

「はぁ……」

「むむ、晧一クン、いつもよりため息が多いね。バイトの合否待ちかな?」


 今日は偶然一緒になった瞬が、いつもと様子が違う晧一を見て言う。


「わかるよわかる。ボクもバイトの面接と合否待ちのせいで、講義が頭に入らなかったんだもん」


 それはそれで大問題だろう。だが瞬曰く、持ち前のコミュニケーション能力で講義の内容を同学部の人から聞き出すという暴挙で落単を乗り切っているそう。晧一も瞬経由で内容を聞くほどだ。

 ――話を戻そう。


「ねぇねぇ、ガソリンスタンドってどんな感じだった? 難しそう?」


 そう聞かれるが、今はそういう話を聞きたくないといった感じの晧一は、若干苦い顔をする。それを察したのか、瞬はひとこと「ゴメン」とだけ言い、それ以降話しかけなかった。



 2日前、午後4時前。今日は晧一のバイトの面接の日。場所は大学の近くのガソリンスタンド。今日に限っては少しいい服を着て、バイクで来ずに歩きで来た。

 よく聞かれるであろう質問に対する答えも考えてある。準備はバッチシだ。

 面接は10分ほどで終わった。

 多少緊張はしたが、ちゃんと受け答えできたと思う。少なくとも早口になって噛んだりはしていない。

 合否は1週間以内に連絡すると面接官兼店長である渡辺は言った。今はそれが気になって仕方がない。

 そのせいで講義の内容が頭に入ってこなかった。



 結局そのまま2限が終わってしまった。

 昼休み、いつものように3人が食堂に集まる。


「あー、なんにも頭に入ってこなかったなぁ」

「大丈夫だよ。分からないところがあったらボクに聞いて。聞き出してみるから」


 この能力はある意味頼りになる。瞬がいなかったら落単していたかもしれない。


「いーなぁ、私も同じ学部にこんな友達が欲しかったよ」

「えへへ、ありがと!」

「なんで瞬が喜ぶの……」


 瞬と唯は楽しそうだが、晧一はどうも気分が乗らない。現にいま食べてるのはコロッケパンひとつのみ。その姿は、まるでキャブレター詰まりを起こしたバイクのよう。


『晧一くん、大丈夫かな……』


 唯は心配そうに晧一を見る。でも声はかけられない。

 結局そのまま昼休みが終わってしまった。


「……じゃ、僕は3限あるから、ごめん」


 調子が戻らない晧一はそう言って席を立ち、食堂を出ていった。


「晧一クン、大丈夫かな……」


 瞬がそうつぶやくと唯が「耳貸して」と小声で言う。内容は「晧一くんをツーリングに誘ってあげて」というもの。

 唯曰く、大抵のバイク乗りは「ツーリングは百薬の長(意味不明)」が当てはまるということ。

 瞬はもちろんだと言ってサムズアップした。


 4限が終わり、晧一は駐輪場に向かう。だが、その足取りは重く、表情も暗い。


「……あ」


 ふと顔を上げると、瞬が愛車のYD125に寄りかかっていた。


「やあ晧一クン、待ってたよ。いきなりだけど、次の土曜は空いてるかい?」

「土曜? 何もないけど……」

「ナイス。じゃあ土曜の12時、大学近くのコンビニに集合! 忘れないでよ!じゃ!」


 瞬はそれだけ言うと、YD125に跨り去っていった。


「土曜はあさってか……。なにするんだろ」


 携帯を取り出してカレンダーと天気を確認。二日後の土曜日はゴールデンウィーク後半。天気予報によれば一日中晴れとのことだ。携帯をポケットに戻して、リュックからグローブを取り出す。


「あれ、あのバイク……。初めて見るかも」


 ふと駐輪場の端にあった、見覚えのないバイクが晧一の目に入る。リアボックスにサイドパニアケース、ナックルガードにウインドスクリーンのついた、いかにも長距離を走りますといったアドベンチャーバイク。ヘッドライトとエンジンの形を見る限り、あれはスズキの「V-STROM 250」。決して珍しいバイクではないが、ほぼ付けられるアクセサリーが全部ついたバイクが大学の学生用駐車場にいるというのはなかなか見ない光景だ。

 しばらくして、このバイクのオーナーと思われる男が駐輪場に入ってきた。その男は耳にピアス、首にネックレスを付けていて、髪は茶色でツーブロック。そして背が高く、顔も整っていてさらには姿勢もいい。見た限りはまさしく陽キャなイケメンといえるであろう男だ。


「……さて、明日から連休だ。このときのために取れる単位は早めに取っておいたんだ。さあて、どこに行こうかな……」


 独り言にしてはやけに声が大きい。誰もいないと思われているのだろうか。


「手始めに九州一周から入ろうか。問題は時計回りか反時計回りかなんだよなぁ。まぁ、どちらにしても海岸線を通って……。おっと、人がいた。それも初めて見る顔」


 イケメンは晧一に気付くと、目をそらして頭を掻いた。


「あー……。あっ、それ君のバイク?」


 気まずさからか話題をそらしてきた。イケメンは晧一のCBX125Fを見て近寄る。


「え、あぁ、はい」

「わーお、見るからにスゲー古そうじゃん。何年式? コレ」

「えぇっと、1984年式のCBX125Fです」

「うぇ? ってことは、いまが2024年だから40年前のバイクってこと? よく動くなぁ。オレのVストは片手で数えられるくらいしか経ってないくらいなのに」


 イケメンは少し自虐的にそう言う。非常に返事に困る話題だ。


「でも、40年前の型落ちとはいえど、見た感じセパハンだしロケットカウルだしでスゲー速そうじゃん。何kW(キロワット)出るの?」

「……?」


 キロワットという、聞きなれない単位が聞こえてきた。

 kW(キロワット)というのは、近年馬力を表すHPやPSに代わって、世界基準で使われているSI単位系のこと。いまやクルマやバイクのカタログでは、基本最高出力はキロワットで表され、PSは括弧で括られるくらい補助的なものに成り下がってしまった。


「えっと、すいません。古いバイクなんでキロワットじゃパッと出てこないです。……そ、そちらのVストロームの出力は?」

「オレのVスト? あー、オレ数字に弱いんだけど……。確か、18キロワットだったかな」


 キロワットには1.35を掛けてやればPS(馬力)になる。つまり、このVストローム250の出力はおよそ24馬力ということになる。


「このVストはスペック上は速くない。でも、このバイクは最高出力よりもトルクがすごいんだ。何N・m(ニュートンメーター)を何千回転で発揮だったっけ。忘れちった」


 イケメンの言う通り、Vストローム250は2気筒だが、馬力は廉価な単気筒モデルの「V-STROM 250SX」よりも2馬力低い。だが、最大トルクはロングストロークのSOHC2バルブエンジンのおかげで、2.2kgf・m/6500rpmとかなり低回転から発揮する。アドベンチャーバイクなので若干重たいが、おおむね初心者向けのバイクといえるだろう。

 ちなみにN・m(ニュートンメートル)も、kgf・mキログラムフォースメートルに代わって世界基準で使われているSI単位系。これはまだ10倍または0.1倍すれば大まかな数字は出せるので助かる。


「っと。まぁでも、バイクってのはスペックだけじゃ分からないこともあるんだ。コイツは出力も低いし上まで回らない。でもオレは扱いやすくて沢山積めるバイクを選びたかったからコイツを選んだ。低速からもグンと加速できるから、スゲー扱いやすいんだ。……いまじゃ、どこへ行くにも一緒。完全にオレの相棒さ」


 そう言いながら、イケメンはリアボックスからフルフェイスヘルメットを取り出して被る。


「……あ待って。名前も言ってなかったから不審者だと思われてないかな?」


 言葉からして独り言だろうが、思いっきり隣に居る晧一に聞こえてしまっている。


「オレは黒井翼(くろいつばさ)。経営学部の3年。君は?」

「……最上晧一です」

「最上ね、覚えた。今度会うのはたぶん連休明けかな」


 イケメンはそう言い残し、Vストロームに跨ってエンジンをかけた。そしてそのまま駐車場から出ていく。マフラーはノーマルなのか、非常に静かだった。


「九州一周か。……僕には無理だな」

馬力とトルクの表記方法ですが、この小説では馬力はPS、トルクはkgf・mで表記させていただきます

作者としては、こちらの表記の方がなじみ深いので…

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