8話 初バイト! の応募
バイクに乗ってたら転倒して怪我しました。
更新遅くなって申し訳ありません。
某日、晧一はいつものように大学に来ていた。1限を受けていまは空きコマ。息抜きがてらカフェで勉強……、ではなくバイトを探している。テーブルには居座るために最低限のコーヒー1杯と1台の携帯。何度もスクロール、タップを繰り返して吟味する。
「……はぁ」
いい加減家賃水道ガス光熱費やガソリン代を貯金から切り崩すのに限界を感じていた晧一は、2日ほど前からバイトをすることを考えていた。とりあえず時給が安すぎなければどこでもいいと思っていたので、まずは近所でバイトを募集しているところをチェックする。だが……
「……うーん」
どれもピンとくるようなところはない。カフェ、居酒屋、コンビニ、葬儀屋、スーパーの品出し、パチンコの玉運び。どれも時給は1000円いくかいかないか。
「げ」
そしてなぜか出てくるキャバクラのボーイや深夜クラブのバイト。そんなのはやりたくないので除外する。
ついでに、時給は高くても仕事内容がハードなところは避けたい。となるとやはり選択肢が限られてくる。
「やっぱり無難にガソスタか?」
クルマもバイクも好きな晧一にとっては、ガソリンスタンドは一番親しみがある。
危険物乙4の資格を持っていればもっといいのだが、面倒なのでいまは考えない。
「……とりあえず応募してみるか。落ちたら……、そのときはそのとき」
一番近いガソリンスタンドにチェックを入れて、晧一は会計をしてカフェを出ていった。
そして昼休憩、今日もぼっち飯は回避できた、のだが……
「ボクは見たよ晧一クン、昨日はそこの彼女さんとデートしたんだって?」
「だからデートじゃないっていってるでしょ!?」
学食にて、仲悪疑惑のある瞬と唯が鉢合わせてしまった。
「えーっ、男のコと女のコが一緒に話してたらそれはもうデートじゃないのかい?」
「……どういうことなのそれ!ってか、もしそうならあなたたちは何になるの!?」
「ボクと晧一クンの関係? それはもちろん『友達』であり『バイク仲間』だよ!」
「本当に? ……そうなの? 晧一くん」
唯は疑いの眼差しで晧一を見る。
「……まぁ、瞬がそう言うならそうなるのかな」
「"瞬"?」
唯は首をかしげる。そういえば、瞬と唯はお互いに名前を知らなかった気がする。
「あぁ、えっと、そこにいる"彼"が瞬だよ。本名は『雨宮瞬』」
「『雨宮瞬』だよ。キミは?」
瞬は唯に名前を聞く。
「私は『柳唯』」
「唯ちゃん! 覚えたよ!」
「うっ、……元気な人ね、あなたって」
唯は瞬にそう言い放つ。だが瞬はそんなことお構いなしだ。
「はぁ。……で、性別不明のあなたのことは何て呼んだらいいの?」
唯は瞬に聞く。「瞬」という名前からして男っぽさを感じるが、本人が性別を明かさないのならむやみに決めつけてはいけない。
「あっ、その設定覚えててくれたんだ。……うーん、ボクとしては呼び捨てがいいかな。晧一クンには言ったけど、男か女かで呼び方かかわり方を変えられるくらいなら、呼び捨ての方がいいから」
瞬はそう言う。確かに、性別がわからないのであればそうするのが妥当かもしれない。
「……わかった、瞬」
「オーケイ! よろしくね、唯ちゃん!」
瞬は手を差し出すが、唯は恥ずかしいのかぷいと横を向く。そしてすぐに晧一の方を向く。
「そういえば晧一クン、さっきキミはボクのことを"彼"って言ったよね? それってつまり、ボクを男として見てくれているってことかい?」
「……あれ、『男と女のどちらで見られても構わない』って言ってなかったっけ」
「おー、ちゃんと覚えててくれたんだねぇ。嬉しいよ」
そんなことを話していたら昼休憩が終わってしまった。
3限が終わり、晧一、瞬、唯の3人は偶然にも駐輪場で会った。
「いーなーふたりとも、自分のバイクがあって」
唯は晧一のCBX125Fと瞬のYD125を見て羨ましそうに言う。
「……私も絶対に免許を取ってバイク買うから。そのときは一緒に走ってよね?」
「もちろんだよ! ツーリングは人数が多ければ多いほど楽しいからね!」
「……うん、僕も楽しみ」
「じゃ、私はバイト! お金を貯めないとだからね!」
唯は手を振って去っていった。
「……そういえばさ、晧一クンはまだバイトしてなかったよね?」
「え、あー、うん」
「大丈夫なのかい? これから家賃とかいろいろ払わないといけないんじゃないの?」
瞬は心配そうに聞く。確かに今は貯金からガソリン代などを切り崩している。それを考えると、瞬の言う通りバイトをしなければ生活が厳しくなる。
「まぁ一応、バイトの目星は付けたけど……」
「お? それはよかったよ。いやあ、もしかしたらいずれお金貸してって言われるんじゃないかと思ってたからさぁ」
心外すぎる。そんなこと言うわけないだろう。晧一はもちろん否定した。
「あはは、そりゃそうだよね。……で? なんのバイトをするんだい?」
「ガソスタにしようかなって思ってる。危険物の資格はないけど、時給は1000円近いし、バイク通勤OKだし、交通費も出してくれるからそこそこ」
「へぇー、ガソスタかぁ。クルマとかバイクが好きな人にとっては天国みたいな場所だろうねぇ」
「……軽自動車に軽油を入れた挙句クレームをつけるヤツとかがいなければ、だけどね」
「えぇっ、そんな人いるのかい?」
「いるんだな、これが」
瞬は驚く。確かに、ガソリンスタンドでそんな客はめったに見ない。
「ま、とりあえず応募はしたから、いまは面接の日程の連絡待ちだよ」
晧一は携帯の通知を確認する。さすがにまだ来ていなかった。
「そっか。……じゃ、ボクもバイトあるから。じゃね!」
「うん、じゃあ」
ヘルメットのシールドを下げ、単気筒エンジンの音とギアチェンジの音を響かせて去っていった。
晧一もCBX125Fのエンジンをかけ、家に帰った。
いつものように誰もいない部屋でゴロゴロとする。誰にも何も言われないのは快適なのだが、両親と一緒に暮らしていたころと比べると、少し静かすぎてつまらない。
別に苦痛というわけではないのだが、いざ変わるとなったら寂しいものがある。
「……うわ」
隣人が何やらおっぱじめたような感じがする。壁の向こうからギシギシと音がするようになった。
晧一はベッドから離れ、シャワーを浴びに風呂場まで行く。
「たまには湯船に浸かろうかな。時間もあるし」
湯の温度を40度に設定し、風呂を沸かしはじめた。
その5分後、湯船がいっぱいになったので、お湯の温度を再度確認するして湯船に浸かった。
このあと、うっかり湯船で寝てしまって1時間も無駄にしてしまった。
「あは、のぼせちゃったよ……」
世界が歪んでいるように見える。晧一は風呂から出て髪を乾かし、寝巻に着替えベッドに座った。まだ若干頭がくらくらしている。
ふと携帯を見ると、通知ランプが点滅していた。
「あれ、もう来たのかな」
思った通り、応募したガソリンスタンドから面接の日程の連絡が来た。早速それを開き、要項を確認する。3日後にあるとのことだ。
時間については時間割を確認した後、午後4時からなら大丈夫そうだったのでそう返信した。
数分経って了承の返信が来る。
「あっ、履歴書買って書かなきゃじゃん……」
履歴書という文字に反応してしまう。だがどちらにせよ書くという運命からは逃れられない。晧一は履歴書を買いにコンビニまで、さっと行ってさっと帰ってきた。
最初に日付名前住所電話番号メールアドレス学歴資格の欄を記入する。写真は大学入学の時に撮ったものを流用。だが「自己アピール」と「志望動機」の文字を見て、ペンの動きが止まる。
「……ッチ、めんどうだなぁ」
だが書かないわけにもいかないので、とりあえず無難でそれっぽい文章を書いておいた。
「まぁ、これでいいか。……さて、あとは面接の日を待つだけかな」
晧一は履歴書三つ折りにして封筒に入れ、テーブルの上に置いた。
「明日は2限からだったか。……まだ寝るには早いし、ちょっとレポートを消化するか」
晧一はパソコンを立ち上げ、レポート作成を始めた。
その翌日、いつものように日常が訪れる。大学までバイクで行き、講義を受けて、昼休みに瞬や唯と話をする。
「そう言えば晧一クン、面接の連絡は来たのかい?」
「うん、来たよ。あさってにある」
「晧一くんもバイトするんだね。どこなの?」
唯が聞いてくる。そういや唯はどこでバイトしているのだろうか。
「大学近くのガソリンスタンドだよ」
「え! あー、でも、そっちかぁ……」
唯はなぜかがっかりしたような感じで言う。
「そっち、って?」
「いやぁ、実は私もガソリンスタンドでバイトしてるんだよね。でも私は大学の近くじゃなくて、少し離れたスーパーの近くにある方を選んだからさぁ」
「あぁー、そっちだったのかぁ……」
ガソリンスタンド違いだったようだ。
「へぇ、唯ちゃんもガソスタバイトだったんだ。女の子なのに珍しいねぇ」
「……なによ、ガソリンの匂いが好きな女の子って変?」
「ガソリンの匂い! ボクも大好き!」
流れるように話題を変える瞬。だが、瞬の言ったように女の子でガソスタバイトというのは珍しいかもしれない。晧一もあまり会ったことはない。
「……とにかく、私がバイトしているガソスタはフルサービスなんだ。つまり給油中のガソリンの匂いを味わえる。だからあそこを選んだの。確か大学近くのガソスタはセルフって感じがしたから……」
「あーいや、実はあそこはスタッフ給油のレーンもあるんだ。フルサービスとセルフサービスの両方がある、いわゆるスプリットってやつ?」
「えっ!? うわー、もうちょっとちゃんと見ればよかった……!」
唯は頭を抱えて悔しがる。そこまでスタッフ給油にこだわりたかったとは。
「ま、明後日が面接だから。頑張ってくるよ」
晧一はそう言って話を終わらせようとする。だが、瞬がそれを許さなかった。
「いいかい? ボクの経験上、バイトの面接ってのはほぼ確で志望理由といつから働けるかを聞かれるんだ。だから、そのふたつは必ず用意しておかないと」
それは当たり前だろうといった感じだが、晧一はひとまず分かったと言っておいた。
すると昼休み終了の合図の校歌が流れはじめた。
「おっと、もうこんな時間か。じゃあボクは次の講義があるから行くね。じゃあ!」
「僕も講義がある」
「あ、私も」
3人はそれぞれの教室へと足を運んだ。