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3話 キャンパスライフ!

「ん……」


 カーテンの隙間から差し込む光で目が覚め、時計を見る。時刻は8時を回ったところだった。


「あぁ……、結局飯も食わず、シャワーも浴びずに寝ちゃった挙句、1限に間に合うかどうかの時間まで寝ちゃったじゃないか……」


 晧一は頭を掻きながらベッドから起き上がり、私服に着替える。そして冷凍保存しておいた白米を温め、食べた。


『……うぁ、もしかしたら昨日の出来事って夢かもしれんな』


 朝がいつも以上に辛く感じるが、のんびりしてはいられない。

 急いでヘルメットとグローブを装着し、駐輪場まで行ってCBX125Fのエンジンをかける。


『暖気は……、まいっか』


 チョークを引いてエンジンをかけ、少しスロットルを開けたままチョークを戻し発進する。

 回転数は走行中は4000回転あたり、停止中は1200回転あたりをキープ、このくらいなら近所迷惑にもならないうえ、暖気も効率的に行える。単気筒のくせに低速トルクはスッカスカだが、街乗りなら50ccのスクーターくらいの加速はできなくもない。


 今日は天気がいいのでバイク日和だ。だが履修登録がよく分かっていなかった晧一は、今月は月曜日と金曜日以外は1限から出席しなければいけなくなってしまった。


『……まぁ、いいや。バイトはしてないし、必修科目がひと段落したらバイクでどっか行きたいな』


 そう考えながら大学に向かう。


 数十分ほど走って大学に着いた。駐輪場に入りCBX125Fを停めてヘルメットとグローブを取り、ハンドルロックとU字ロックをかけ、キャンパスに向かう。


「お、晧一クンじゃあないか。この時間に来るんだね。おはよー」


 向かう途中で偶然にも瞬に会った。


「あ、おはよう、えっと……」


 見た目も声も中性的な瞬をどう呼べばいいのか晧一には分からなかった。なのでとりあえず苗字で呼ぼうとすると


「"瞬"でいいよ。ボクは男と女のどちらで見られても構わない。それに男か女かで呼び方とか関わり方を変えられるくらいなら、初めから呼び捨ての方がいいからさ」


 心を読まれたかのように、ドンピシャでそう言われる。晧一は少しだけ黙ってしまった。


「分かった。"瞬"って呼ぶことにするよ」

「うむ、よろしい。じゃあ、ボクは1限の経営学からだから」

「あ、僕も」

「ほんとに!? じゃあ一緒に受けよう! はいゴーゴー!」


 同じ学部学科で同じバイク乗りだからか、瞬はやけに晧一にべったりだ。

 結局一緒に1限を受けたが、瞬がやけに話しかけてくるので集中できなかった。


 次は2限の中国語。今度は時間割が違ったようで一緒ではなかった。晧一と瞬は別れ、晧一は2限の教室に入る。

 まだ人はまばらだった。晧一はわざわざ一番後ろの席へ向かうと、見覚えのある女の子が座っていた。


「あ……」


 そこにいたのは唯だった。彼女も気づいたようで少し驚いた表情をしていた。


「あれ、晧一くんも中国語だったんだ」

「うん。……もしかして柳さんも?」

「そ。……本当は楽そうだったから取ったんだけどネ」


 唯は「てへぺろ」といった表情をする。確かに彼女の言う通り、中国語は日本語と似ている部分が多く、比較的親しみやすいかもしれない。


「隣、いいよ?」


 唯がそう言いながら隣の椅子をポンポンと叩く。晧一はひとこと礼を言ってから座った。


「あの……、柳さんの学部って?」

「……唯」

「え?」

「唯でいいよ。苗字で呼ばれると何だかお客さんみたい」


 彼女は少し照れくさそうに言う。晧一は少し驚いたが、すぐに分かったと言ってうなずいた。


「じゃあ、唯さんってどの学部?」


 唯は一呼吸おいて口を開く。


「……工学部」

「え、理系なんだ」

「うん。……意外? 女のコが理系なのは」

「いや、そんなことはないよ」


 唯がそう言ったあと、スピーカーから教授の声がした。

 それに反応すると、さっきまでまばらだったにもかかわらず、教室は満席だった。やはり中国語は人気なようだ。

 そして講義が始まる。まだ最初の方なので比較的簡単だ。

 90分間の講義中、若干うとうとしかけてしまったが。


「ふぃー、やっぱり90分は長く感じるなぁ」


 講義が終わり、唯はそう言うとため息をついて、あくびと伸びをした。


「そうだ、このあと一緒にお昼でもどう? ここの学食、安くておいしいって評判……って、聞いてる?」


 晧一は教科書や文具をリュックにしまい、今にも立ち去ろうとしていた。


「……え、僕?」

「あなた以外誰もいないでしょ?」


 確かに唯の目線は晧一の方に向いていた。晧一は何か言おうとするが言葉が見つからない。

 

「……だから、一緒にご飯を食べないって誘ったんだよ!」

「あぁ、ごめん……」

「謝罪はいいから! その、返事は……」


 だいぶグダグダとしてしまう。結局晧一はOKと言い、一緒に昼食を食べることになった。


「何を食べようかなぁ」

「まぁ、無難に……」


 二人は大学構内にある食堂に来て食券を買いにいく。そしてそれぞれ好きなものを買って席に戻った。


「……あなたそれ、少なすぎじゃない? ちょっとぉ、まるで私が大食いのように見えちゃうじゃない!」


 晧一のテーブルにあるのは、普通盛りのライスと味噌汁、そしてサラダだけだった。

 対する唯は大ライスとカレーうどん、それも大盛りだった。


「あ、いや、その……、僕は燃費が悪いんだ。だからこれぐらいで十分なんだ」

「燃費って……。はぁ、まあ別にいいよ。それよりも覚めちゃうから早く食べよう」


 二人は手を合わせてから箸を持つ。そして食べ始めた。

 唯は冷ますことなく一気に麺をすする。そして麺の芯まで味わうかのようによく嚙んでから飲み込んだ。


「ああっ、やっぱ新天地で食べるカレーうどんは最高っ」


 唯は満面の笑みを浮かべながらカレーうどんをすする。そしてあっという間に麵だけを食べ終え、残った出汁入りカレーにライスを入れて食べ始めた。

 対する晧一は、ずっと下を向いて黙ったまま食べていた。


「ごちそうさまでしたっ」

「ごちそうさまでした」


 二人は手を合わせてから食器を返却し、食後のお茶を飲んで一息ついた。


「はぁ……、やっぱり学食って安くて量も多くて最高っ。……自炊なんてしたくなーい」


 唯はお茶を飲みながらつぶやく。


「自炊できないと苦労するんじゃないの?」

「げぇ」


 そう言われて嫌そうな顔をする。すると晧一の隣に人が座ってくる。そこにいたのは瞬だった。手にはホットのいちごオレが入ったカップが握られていた。


「やあ友よ、ごきげんよう」

「あれ、君もお昼?」

「いや、ご飯はもう食べたよ。……実はちょっと前からキミの姿を見て声をかけようと思ったんだけど、どうもそこにいる彼女さんと仲良くしていたみたいだったからさ……」

「かのっ……!?」


 唯はなぜか顔を真っ赤にする。そしてそれをごまかすかのようにお茶を一気に飲み干した。


「あ、いや……、別にそんなんじゃないよ」


 晧一は何も分かっていないかのようにそう言うと、瞬は少し残念そうな表情をした。


「なんだぁ、違うのか。てっきりキミとそこの彼女さんとはそういう関係なのかと思ったんだけどなぁ……」

「え? いや、僕みたいな陰キャに限ってそれはないよ」


 するとなぜか唯はジト目で晧一の方を見る。そして目線を瞬の方へ移す。


「ちょっとあなた、いきなり出てたりして何のつもりよ」

「いやいや、ボクはただ単に友である晧一クンと話がしたかっただけだよ。……で? 二人はどういう関係なんだい?」

「あなたみたいな失礼な人に話すことなはいよ。それにあなた、そのなりでその髪の長さ、そして"ボク"……。男なの? 女なの?」


 唯がそう言うと、瞬は唇に人差し指を当てて言う。


「無回答、もしくはどちらでもない、としか言えないよっ」

「……なにそれ、わけわかんない」

「で、キミはボクをどう見るんだい? 男の子? それとも女の子?」

「初対面でいきなりそんなジェンダーな話をするの? はぁ……、じゃ、私はこれから実技だから」


 唯は無理矢理話を終わらせて席を立ち、食堂を後にした。


「ありゃりゃ、嫌われちゃったかな?」

「ちょっと話の入りが強引過ぎたんじゃないの?」

「あぁ、そうかもねぇ……」


 瞬と晧一はそんな話をして、揃って飲み物を飲み干した。


「そうだ。キミはこれから講義あるかな?」

「えっと、次の3限が終わったらもう帰ろうかなって思ってる」

「じゃあさ、3限終わったらちょっと付き合ってよ。拒否権はなし! じゃ、また会おう!」


 そう言うと瞬は食堂から出ていった。

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