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19話 バイト先でもオートバイ(?)トーク

私生活が忙しくなってきて更新できませんでした。遅くなってすみません。そして今回も短めです。

 2週間後。某ガソリンスタンド――


「どう? 少しは慣れてきた?」

「えぇ。おかげさまで。直樹先輩の教え方が上手ですので……」

「そんな大げさなー。でもありがとね」


 晧一がバイト先の先輩と話をしている。

 彼の名前は箱崎直樹(はこざきなおき)。バイト歴5年のベテランらしい。歳は24で現在はフリーターとのこと。身長は晧一よりもやや高く、眼鏡をかけていてやや細身。いかにも真面目そうな雰囲気の人。

 給油はもちろん、タイヤの空気圧測定に洗車、オイル交換も楽々やってのける。彼は晧一がバイトを始めてからというもの、何かと気にかけてくれている存在だ。

 だがここのガソスタはスプリット式なので、スタッフである晧一たちが出る幕はそれほど多くない。なのでたまに雑談をしている。


「あぁ、そうだ。店長から聞いたんだけどさ、バイクに乗ってるんだって? それも古いヤツに」


 渡辺が直樹に何か話したのだろうか。だが隠すことでもないので、晧一はそれに答える。


「ええまぁ、はい。ホンダのCBX125Fっていう、多分マイナーなバイクです」

「CBX125Fね。覚えておくよ。……実は俺も、昔バイクに乗ってたんだ。カワサキの『ZRX400』っていうヤツ。角目ビキニカウルがついてるバイク。確か、20年くらい前のバイクだったかなぁ。……いまは乗ってないけどね」


 カワサキが誇るミドルクラス4気筒。同社の大人気空冷4気筒ネイキッド「ZEPHYR (400)」に対して、パフォーマンスの高さを強調したモデルというポジションの水冷4気筒スポーツネイキッド。それが「KAWASAKI ZRX400」。

 当時はゼファーやゼファーχ(カイ)と比べると、さすがに知名度は高くないバイクだったが、最近になって徐々に価格が高騰しているという。


「へぇー、いいバイクじゃないですか。ZRX。……でもどうして乗ってないんですか?」


 そんないいバイクに乗っていたいというのに、降りたという直樹のことがが気になって、晧一はそう質問する。


「あー。単純にクルマに乗るようになったから、かな。クルマの方が楽だし、暑くないし寒くないし濡れないし。……それに、これからの時期はバイクにとってもバイク乗りにとっても地獄と言っていいし……」


 答えは非常に簡単なことだった。


「あぁ、確かにそうですね……。これから梅雨が来ますし、そして梅雨が終われば今度は暑い夏が来ますもんね……」

「そうそう。結局俺はそこまでしてバイクに乗りたいとは思わなくなっちゃってねぇ……」


 直樹は苦笑いしながら言う。

 無理もない。雨の日は自分も濡れるしバイクも濡れる。そして暑い日は信号などで止まった暁には、上から強い日差しを受けながら足元にエンジンの発熱を受けるという地獄。それでも乗る人は乗るというのがバイクなのだが。


「免許を取ってから、バイクで出かけるくらいならクルマで出かけようかなって思うようにもなっちゃったんだ。……まぁ、まだZRXを手放したわけじゃないから、完全にバイクから降りたたわけじゃあないんだけどね。だから、せめて妹に乗ってもらおうかと思ってるけど、あいつは『怖いー怖いよー』って言ってるから……」

「なるほど。ちなみに先輩は何のクルマに乗ってるんですか?」

「ああ、俺は……」


 晧一は素朴な疑問を投げかける。そう質問された直樹は、少し考えてから口を開く。それも、にやりと笑いながら。


「そうだ。突然だけどクイズ」

「……は、はい?」

「最上君は確かクルマのことも好きだって言ってたよね? だったら、少しは答えられるはず、だよねぇ?」

「え、えぇっと。はい多分……」


 晧一はバイクだけでなくクルマのことも好きだが、いきなりクイズだと言われたら答えられるかどうか不安だ。


「じゃあ第1問! かの有名な『AE86』の、リトラクタブルヘッドライトの方の車名は何でしょう?」


 これは簡単。「ハチロク」と言えばのあのクルマ。

 だが答えが分かっていても、晧一はどう答えればいいのか分からず、迷いながら答えを言う。


「えっと……。『トヨタ スプリンタートレノ』、でいいんですか?」


 晧一のその答えに、直樹は腕を組んで頷く。


「正解だ。じゃあ次。 日産のスカイライン GT-R 『R33』の、正式型式名は?」


 正式型式名ということは、例えば「R32」なら「BNR32」というように答えればいいのだろうか。

 それならば、と晧一は答えを言う。


「『BCNR33』ですね」

「おおっ、すごいねぇ」


 直樹はいかにも「わかってるねぇ」といった顔で晧一を見て頷いた。そして続ける。


「じゃあ……、今度はバイクから出そうかな! カワサキの『ゼッツー』の愛称で知られる『Z2』の車名は?」


 これも難しくはない。あのカワサキが誇る、有名なナナハンの名前だ。


「『750RS』、です」

「うんうん、素晴らしい。じゃあ最後の問題! これは難しいぞぉ。『FD3S』はマツダの3代目RX-7の型式名だが……、『SE3P』。この型式を持つクルマはなに?」


 ついに最後の問題。

 わざわざFD3S RX-7を出してきたのなら、それに何か関係があるはず。晧一はそう考えるが、どうもピンとこない。

 悩んでいると、直樹が助け舟を出してくれた。

 本来は「FE」の名が付くはずだったクルマ、とのこと。それならかなり絞られた。というか一択。


「……だったらおそらく、マツダ最後のロータリーエンジン。RX-8ですね」

「イエス。俺が乗ってるクルマが、その『RX-8』だ。はは、結構やるじゃん! 君とは話が合いそうだ」


 そんなおふざけをしていると、それを見かねたのか店長の渡辺が顔を出してきた。


「なんだなんだお二人さん。仕事をサボって私語雑談か?」


 渡辺はあきれたような目つきで直樹と晧一を見る。多分怒っているのだろう。


「ああ、店長! す、すみません……」

「ご、ごめんなさい」


 二人はとりあえず誤って頭を下げる。するとさっきまであきれていたはずの渡辺の顔が明るくなる。


「はっは、いいよいいよ。客ってのは来ないときは来ないんだ。バレなきゃいくらお喋りしたって怒りはしないよ」

「えっ、いいんですか?」

「おう。その代わり、客が来たらちゃーんと接客するんだ。それでいい。……っと、噂をすればお客さんだ。ホラ、仕事だ仕事!」


 いつの間にかスタンドの横にクルマが来ていた。さすがに客を待たせるわけにはいかないので、二人はすぐに仕事モードに切り替えて仕事を始める。

 だが客が来たのはこの1回だけ。退勤時間が来るまで直樹と晧一、渡辺は暇そうにしていた。

 その間晧一は、外で直樹と雑談したり店内でほかのバイトの人たちと仕事をしたりした。



 そして6時、ようやく退勤の時間。晧一は着替えて帰る準備を済ませる。


「お疲れ様です、先輩」

「お疲れ。俺はこのあと夜まであるから、しばしの休憩ってわけで。じゃあまた」

「はい、また」


 直樹は手を上げて晧一を見送る。そして彼はスタッフルームへと戻っていった。


 ガソリンスタンドの裏に停めていたCBX125Fに乗り、エンジンをかける。


 このあとはどうしようとと独り言をこぼしながら、とりあえず晧一は自宅を目指す。渋滞が起きやすい時間からは外れているので、つっかえることはないはず。

 少し遠回りして帰ろうか。そんなことを考えていると、胸ポケットに入れていた携帯が振動する。


「えっ。運転中だってのに、こんな時に電話かよ……」


 さすがにバイクの運転中なので電話に出ることはできない。だが電話の相手は切る様子もない。仕方なく近くのコンビニにバイクを停めて、携帯を取り出す。


「誰だ? って、親父じゃないか……」


 電話をかけてきたのは晧一の父親、最上研二郎(もがみけんじろう)だった。

 ため息をつきながら応答ボタンを押して、携帯を耳に当てる。


「はい親父?」

『遅いぞ晧一! 電話にははよ出んしゃい!』


 電話に出て早々研二郎は息子を怒鳴りつける。だが本気で怒っているわけではなく、ややわざとらしく言っているように聞こえた。


「ごめん。だけどしょうがないだろ? 運転中だったんだから……。それで、わざわざ電話までして何か用?」

『おお。ちょっとこっちを手伝ってくれんか? いまちいと手の離せんくてさ。どうせ新しくバイク買ったんだから、こっち来れるだろ? 金は出してやるから』


 研二郎はそう言うが、晧一はどうも乗り気ではないようだ。ここで手伝えば、副収入が得られるというのに。


「だからってなんで今なのさ。僕は疲れてるんだよ……」

『そう言うな息子よ。金は出してやるって言ってやってんだから、頼まれてくれよ』

「うーん。……はぁ、わかったよ。行けばいいんだろ」

『おう! 頼んだぞー』


 結局行くと言ってしまった晧一。そして研二郎はその返事を聞くとすぐに電話を切った。あまりにも早い。


『久しぶりに電話してきたと思ったら、仕事の話かよ……。ったく。……まぁ、金が出るなら行ってやるか。それに、たまには実家に顔を出しておかないとね』


 晧一はコンビニで水を買って飲み干し、CBX125Fのエンジンをかけ、駐車場を出て再び走りだす。

 向かうのは、市街地から30分ほど走った先の町外れにある晧一の実家だ。

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