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14話 限界タイムアタック

 タイムアタックで使用される白城峠は、行き16コーナー、帰り16コーナーの計32コーナー。熟練の走り屋からしたら物足りないだろうが、いまはコンプライアンスや迷惑行為、違反行為に厳しい社会なので、人目につかず近所迷惑になる恐れのない区間を走るというのが、いまの走り屋の暗黙の了解となっている。自分たちの遊び場は、自分たちで守らなくてはいけない。


 ――話をタイムアタックに戻そう。


 駐車場を出て、スピードが乗る直線からの右コーナー。時速は70キロ超えからのブレーキングからのターンイン。前後ブレーキをかけながらのブリッピングシフトダウンを巧みに使いこなしてコーナーへ進入。ややリーンインの体勢。若干リアブレーキを残しつつ、スロットルを徐々に上げて立ち上がる。ここでまたSR400とCBX125Fの差が広がる。これはバトルではないが、トラックリミットを見るためには姿が見えないと困るので、櫻子はなんとか晧一に食らいつこうとする。

 上りかと思えば、次は下りながらの左から右のS字コーナー。ここは段差舗装なうえに道路も荒れているため、まさにバイク泣かせといったところ。櫻子は恐怖心から速度を落とすが、晧一はラインを崩すことなくきれいに立ち上がる。ここでまた差が広がった。

 また上って段差舗装ありの右コーナー。CBX125Fはインにもアウトにも流れることなく、安定したライン取りでコーナーを攻略する。

 次は緩い右からのきつい段差舗装あり橋のジョイントありの左。最初の右コーナーでSR400は減速するが、CBX125Fはブレーキを踏むことなく曲がっていった。だがこの先はきつい左、減速しないと谷底に真っ逆さま。しかしCBX125Fはブレーキはすれど過度に減速せず、まさに破綻しないギリギリの速度で左を抜けていった。

 コーナーを抜けたらしばらく直線主体の道が続く。パワーのない125ccのCBX125Fにとっては最大の泣き所。直線さえ何とかなれば、あの城ヶ崎のZX-25Rにも負けない気がするが、パワーの差は到底埋められそうにない。

 上り勾配の緩い右と左を抜けて、次は入口は緩いが出口がきつい左コーナー。それも段差舗装あり。コーナーに入る前のCBX125FとSR400の速度は時速100キロを超えている。そこからのブレーキングは、晧一にとっては大丈夫でも櫻子には恐怖でしかなかった。

 CBX125Fはコーナーでかなり攻めの走りを見せる。車体を大きく倒しこんでから、素早くシフトアップして立ち上がっていく。


「すごい、こっちは400ccなのに……」


 櫻子は、晧一の攻めの走りに驚く。いくらSR400が同クラスの中で非力とはいえど、コーナーワークで125ccについていけない。明らかな腕の差を感じる。

 次は緩く長い左。CBX125Fはアウトインアウトのラインを取って、少しでもスピードを乗せようとする。パワーと排気量で勝るSR400が、ここで少し差を詰めてきた。

 再び時速100キロになったところで、アスファルトが右を向いて消えていく。次は右から始まる段差舗装だらけのS字複合コーナー。

 フルブレーキングからのきつい右からの立ち上がり。パワーバンドからは少し外れたものの、直線に向けてフルスロットル。かと思えば今度はややきつい左。そして緩い左から短い直線からのきつい右と左のS字コーナー。まさに連続コーナー区間だ。

 そこをクリアすれば、あと3コーナーでUターン地点。櫻子は、もはや晧一を観察するだけの余裕もなかった。ただ、少しでも離されないように食らいつくので精いっぱいだ。

 鈴鹿サーキットのスプーンカーブを彷彿とさせる複合コーナーを抜ければ、見えてくるのは筑波サーキットの第2ヘアピンとよく似ている最終コーナー。そこを抜けたら、佳奈が立っている場所でUターンしてきた道を戻る。

 下りの最終コーナーを抜けた先、直線の先に佳奈が待っているのが見えた。ここでUターンだ。

 CBX125Fは減速して、佳奈の立つ場所でフルバンクして転回、来た道を戻っていく。


「ウソでしょ!? Uターンって、あんなに速くできるものなの……?」


 櫻子はCBX125Fの華麗なUターンを見て思わず目を丸くする。

 セパレートハンドルのバイクは転回が難しいものなのだが、晧一は破綻もせずに最小限の膨らみで転回していった。

 ここから来た道を戻り、瞬のいる駐車場に戻る。ここまでがタイムアタックだ。

 上り下りの多い白城峠だが、どちらかというとUターン後の方が上りの割合は多め。CBX125Fはここでやや失速してしまう。


 さっき走ってきた道のはずなのに、まるで違うコースのように思えてくる。

 行きと比べたら、段差舗装のあるコーナーの数は少ない。それだけでも、コーナーで跳ねながらアウト側に流されるという心配はなくなるから、走りやすい。

 それでもやはり、上り勾配というのは非力な125ccにとってはきつい。

 高回転型単気筒が頑張ってくれているが、こちらが不安になるほど振動するし唸っている。

 たまには回してやらないとと思っているが、10000回転付近をずっと維持しているとなると、旧車のCBX125Fのエンジンが耐えきれるかどうかがあまりにも心配。

 だが攻めなければ、このバイクとお別れになってしまうかもしれない。

 せめて帰るまでは耐えて欲しい。そう願いながら、晧一は白城峠を駆け抜けた。

 だがやはりコース特性のせいか、帰りはSR400に追いつかれるほどだったのでタイムは伸びなかった。


「……晧一クン、タイムが出たよ」


 瞬がタイムを晧一と櫻子に見せる。タイムは7分2秒011と表示されている。


「確かアイツ、城ヶ崎がタイムは6分24秒だって言ってたから。つまり差は38秒……。晧一くんも速かったけど、これはキツイねぇ……」

「あぁー、さすがにキツイかなぁ。やっぱり、排気量と馬力の差は相当の腕がないと覆せないよ……」


 懸命の走りを見せた晧一だが、やはり型落ちのCBX125Fでは、最新フルカウルスポーツのZX-25Rに勝つのはほぼ不可能。


「このままじゃ、僕のCBXは捨てられるかもな……。てか、そもそもこちらが不利な勝負なんだ。ッチ、バカげてるよ、まったく……」


 いまにして思えば、125ccと250cc。単気筒と4気筒。17馬力と45馬力。それも勝負する白城峠はコーナーが緩く直線が多い。これはあまりにも不公平な勝負だと感じる。

 このままじゃ負けるのは必然。そして逃げるにしても、城ヶ崎とは同じ大学。必ず目を付けられるだろう。

 どうしようかと頭を抱えていると、佳奈がCBX250Sに乗ってこちらに戻ってきた。


「どうだった……?」

「あぁ、おかえり佳奈。タイムは7分2秒だって」


 櫻子がタイムを佳奈に伝える。城ヶ崎とのタイムを思い出し、指を折って差を計算する


「そっか、じゃあ差は38秒……。んー、キツイね……」


 佳奈もさすがにこの勝負の無謀さに気づいたようだ。


「やっぱり、こんなの勝負だって言わない! 下りの一本勝負ならまだしも、白城峠はアップダウンが激しいし、それも往復してでの合算タイムアタックなんだから! たぶんあたしのSRちゃんでも勝てっこないよ……」


 CBX125Fに必死についていった櫻子も、マシンスペックでは勝てないことを思い知らされた。


「どうしたらいいんだろう……」

 

 やれることはすべてやったつもり。でもまだ攻め足りないというのか。かといってもっと攻めるとなれば、今度は転倒して自らバイクを谷底に落とすことになるかもしれない。

 もう絶望的だ。この勝負、負けるしかないのか。瞬と櫻子、そして晧一もそう思った。

バトル回の前日譚です。若干短めです。

あと、登場人物が増えてきたので、どこかで登場人物紹介を挟んでみようかと思っています。

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