6:リュックと個性
クレープ屋さんをあとにし、鞄屋さんに到着。
旅行用の鞄と、フォン・ダン・ショコラたちのリュックを買うことに。
ウィルがストレージに入れておけばよくないか? と首をひねっていたが、利便性の話ではないのだ。
「可愛いは正義なのだよ、うぃるふれっどくぅん」
「分からんが、分かった」
――――どっちなのよ。
まぁいい。
フォン・ダン・ショコラたちが、三人でキャッキャとリュックを選ぶ姿は尊いので、眺めておこう。
「これはどうだ!?」
「おもたいー、しょこらやだ」
「えー、もぉ。ショコラは、おもたいしかいわないなぁ。ショコラはどれがいいの?」
「しょこらね、これ!」
「それおんなよう! オレ、ヤだからな!」
そういえば、ショコラはいつも女の子用のやつ選びがちだな。
「生物学上的には雄よね?」
「ついてるだろ」
「……まぁ、はい」
一緒にお風呂入ったりもするからね、そりゃねぇ。
まぁ、何を着ようが、買おうが、好きなものにしなよとは思うけど『お揃いにしたい』との兼ね合いが上手くいかないこともあるようで、今のような小さなケンカをしているのは時々見る。
介入してもいいのだが、ずっと一緒にいるんだから、ケンカして仲直りや妥協点の見つけ方は、なるべく自分たちでさせるようにしている。
「ショコラ、ダン、これはどう?」
フォンが持って来たのは、ほとんど同じデザインだけど、男の子用と女の子用で少しサイズや飾りが違うリュックだった。
「それならいいぞ」
「しょこら、これすきー!」
「じゃあこれにしよう」
「「うん」」
いつもフォンがお兄ちゃんみたいな仕事をしているなと、見てて思う。ショコラは甘えん坊の末っ子って感じ。ダンはヤンチャな弟みたいな感じだしね。
それぞれの個性が育ってきてて、なんだか感慨深い。
「ごしゅじん、きまったぞ」
「んじゃ、お会計に行くよー」
「「はーい!」」
旅行鞄は既に決めていたので、支払いを済ませてまたもやウィルのストレージに。
ウィルが結局ストレージにいれるのかよとか言っているが、それとこれとは別というか、無粋なのだよ。
「他に必要なものは?」
「うーん。今のとこ大丈夫かなぁ」
「ん。帰るか」
皆で鞄屋さんを出たところで、辺りが騒がしいなと思った。ダンがウィルの背中をよじよじと登って、さっと首をまたいでセルフ肩車になっていた。器用だ。そしてウィルはそこ怒らないんだ?
「まおう、まおう! ケンカしてるぞ! ヒヨルドだ!」
「…………ヒヨルドだな」
「えっ、そうなの? 人集りで見えないんだけど」
ナチュラルに肩車を受け入れているウィルも気になるけど、ヒヨルドが道端でケンカしているとかいう謎も気になる。
「けんか? だめなの。なんで?」
「あ? 痴話喧嘩だろ」
「ちわ?」
痴話喧嘩って、ヒヨルドが? 彼女とかいたっけ? なんか不特定多数とデートはしてるっぽいけど、誰それとお付き合いしてるとかは聞いたことがない。
「痴話喧嘩するほどの相手がいたのね」
「いや。一方的にキレられてる」
「あー……」
なんとなく理解した。
ヒヨルドはただご飯を食べたり、おしゃべりしたりとかのゆるっとした時間を過ごすデートが好きらしく、おしゃれなお店に女性を連れて行く事が多い。
ヒヨルドの地位も相まって、それが余計に相手に期待を持たせるのだろう。
「自業自得ね!」
「あぁ、自業自得だ」
ウィルがフォン・ダン・ショコラたちにあんな大人にはなるなとか言い放つのを苦笑いして聞きつつ、家に帰ることにした。
ヒヨルドは放置でいいらしい。





