5:バカンス用の服
ウィルは水着は買わなくていいらしいので、旅行中の洋服を選ぶことにした。
魔界は人間界と違って、外出時はドレスだなんだという決まり事がなく、服装の自由度が高い。
「ノースリーブワンピ、買っておこうかな」
ウィルのお父さんがいる場所は、一年中暖かな観光地らしいので、みんなラフな服装をしているんだとか。たまにはそういう服装をして出掛けるのもいいだろう、ってことでつい色々と買ってしまった。
「フォン・ダン・ショコラは? 決まった?」
「「きまった!」」
三人がパタパタと持ってきたのは、それぞれの色のアロハシャツと白い短パンなどだった。てか、この世界ってアロハシャツあったんだ。
「可愛いわね。ウィル、お揃いで――――」
「しない」
「ですよねー」
わかってても聞いてみたくなるのが、私のサガ。そして、こうやってイジっても怒らないのがウィル。だからだろう、ついついイジってしまうのは。
他に必要な物はと見ていて、どえらくツバが広い、いわゆる女優帽と呼ばれている形の麦わら帽子を発見した。
「おわぁぁぁぁ! っぽい! 凄く、ぽい! どうよ?」
帽子を被って見せたら、ウィルが「お前はいつも楽しそうだな」とクスクスと笑っていた。
そりゃ、みんなでお出かけしてお買い物なんて楽しいに決まってるじゃないかと胸を張って言うと、ウィルが私の右頬に手を添えてスリッと撫でた。
「っ!」
これはウィルがキスしたい時にしてくる触り方。
想像してしまったせいで顔が熱い。麦わら帽のツバで顔を覆ってウィルに背を向けた。
後ろからクスクスと小さく笑い声が聞こえる。
「いつまで被ってるんだ? それは売り物だろ?」
「買うからいいのっ」
いま帽子を取ったら、耳まで赤いのがバレるから駄目なのだ。
どうにかこうにか落ち着いて、お会計。荷物はウィルのストレージに入れてもらった。
「さて、あとは何かいる?」
「しょこらね、りゅっく?がほしいの」
「おお、リュックか。いいねぇ、可愛い」
「グハッ」
レジでアニタさんが悶え死んでたけど、たぶん無視でいいはず。店長さんに挨拶してお店を出た。
鞄屋さんを目指しつつ、ちょっとブラブラ。クレープ屋さんに立ち寄って、それぞれ好きなものを頼んで食べている時だった。
ふと、ふわふわのパンケーキが食べたくなったけど、魔国にあるのは、こう……慎ましやかなパンケーキだった。人間界ではどうだったっけなと考えていたけど、思い出せない。
「フワッフワのスフレパンケーキってある?」
「ん? ふわふわ? 知らん」
「ふわふわですか? 聞いたことありませんね」
クレープ屋さんも知らないということは、ないのだろう。ほむん。
「また新メニューですか!?」
リスの獣人であるクレープ屋さんが、私を見あげながら目をキラキラと輝かせていた。
「うん。だけど、今回は屋台系じゃないの。ごめんね」
「ただ食べたいんですよ!」
クレープ屋さんは、生地は美味しいのに閑古鳥が鳴いていたので、ものすごくもったいなく感じて、ついつい中身やメニューについての案を色々言っちゃった経緯がある。
「ぱんけーきすきー!」
「ボクも」
「うーん。それなら開発頑張るよ」
開発というか、記憶の洗い出しなんだけども。
とにもかくにも、まずは目的の鞄屋さんに向かおう。





