2:お父さんってどこにいるの?
とりあえず、お父さんに挨拶に行くのは確定として、どこにいるんだろうかと気になって聞いてみた。
「パスコビル」
「……どこよ」
「観光地。魔界の端」
「魔界の端?」
私たちがいるのは壁に囲まれている魔国で、魔界の中心地だ。お城があって、城下町があって、その周りにもちょっとした畑やら川やらを挟んでいくつかの町があって、という感じ。
魔国の周りは魔の森や魔の高原とか、とにかく『魔の〇〇』系の土地に囲まれているらしい。そこには小さな町や、単一の種族などが暮らす村があったりするのだとか。それらをまとめて『魔界』と呼んでいる。
そしてその魔界を囲むように人間界がある感じだけど、四分の一程度が海に面している。ってのは、人間界にいたころに学んではいた。
魔国に来てからは、特に話した覚えがないし、気にしてもいなかった。
ウィル、そういうの話さないし。ということで、私の知識がカスカスなのは、ウィルのせいにしとこう。
「ルヴィ……今、なんか考えるの諦めただろ?」
「なんのことかなっ! で、どこよ、ぱすぱすびる」
「パスコビルな。海沿いの町」
「海っ!?」
海か、海かぁぁぁ。観光地ってことは、泳げたりするのかな? 魔魚?とかに襲われたりしないかな?
だって、海にはレヴィアタンとかなんかそんなのいるって言ってたよね? レヴィアタン=鮭だったけど、たぶん見た目やサイズは鮭じゃないよね?
いやでも、海なんだよね、海沿いの町。
「海かぁ、海ねぇ。海、いいよねぇ」
「……行かんぞ?」
「えー? 行きたくない? 泳ぎたいんだよねぇ。そもそも、泳げるの? あ、でも水着持ってないから、水着買わなきゃだけど」
「水着…………………………………………行くか」
驚くほど簡単に釣れた。
渋々って感じの声ではあるけど、口の端がニヨニヨしているから、脳内で煩悩と戦って完全に敗北してるんだろうな。
「ねー、海って泳げ――――」
「泳げる」
泳げるのか聞こうとしたら、被せながらに答えられた。これは泳げるか泳げないかとか関係なく『泳げるようにする』という意味なんじゃなかろうか。
ウィルならやれそうだし、やりそうだ。
この人ほんと、有り余る魔力を変なとこで無駄遣いしてる気がする。ってかウィルって魔人? 悪魔? なんなの?
「いまさら聞くのか……」
呆れたような声を出されてしまった。
「いや、お母さんが人間だったとは聞いてたけどさ」
「あぁ。父親が悪魔で母親が人間で、俺は魔人という部類にはなる。まぁ悪魔でもいいんだが」
「どっちよ!?」
なんだかそういった細かい名称を分けていないというか、みんなあまり考えないらしい。魔族たちは、個人個人の能力でその個人を判断しているのだとか。
一部種族の特性とかで固まって生活はしているらしいけど。
「ドワーフやエルフなどが自分たちだけの町を作っていたりするな」
「エルフ! 耳の先が尖ってて、超絶美形ばっかりで、めちゃんこ長命な、エルフ!?」
「なんでエルフにそんなにも前のめりなんだ」
エルフっていったら、ファンタジー世界の代表格って言っていくらいの種族じゃん。気になるのはボン・キュッ・ボンなタイプなのか、慎ましやかな絶壁タイプなのかだけど。
「個人によるだろ。おっさんみたいな思考だな……」
「うるさいわよ!」
まったくもう。ウィルはいちいち細かいところに突っ込むわね。
そんなことよりも、海よ海。水着買いに行かなきゃね。ウィルとフォン・ダン・ショコラたちの分も。





