2章1:お手紙が届きまして。
そろそろ夏になるね、なんて話していた午後だった。
郵便屋さんが定食屋に私宛の手紙を持ってきたんだけど、知らない送り主だった。
「ベネディクト……さん? 誰だ」
「は? ちょ、見せろ」
「え、いいけど。まだ開けてないよ」
トロふわタイプのオムライスを食べていたヒヨルドに手紙を渡すと、妙に難しい顔をしていた。
「中身は魔王と見ろ」
「ウィルと? なんで?」
「……アイツに聞け」
歯切れの悪い返事だった。そのおかげで妙にソワソワ。久しぶりにウィルの帰りが遅かったこともあり、更にソワソワで、リビングのソファに座ってクッキーをもりもりと食べてしまった。
「ん? 起きてたのか。ただいま」
「おかえりこれ!」
返事しながら届いた手紙をずいっと差し出すと、ウィルがしかめっ面で舌打ちした。
「あ?」
「誰よ、ベネディクト。ヒヨルドがウィルに聞けって」
「…………親父だ」
「ウィルのパパン!?」
「パパ言うな気持ち悪い」
いや、パパやんけ。というツッコミは諦めるとして、なぜに私を名指しでってか、私の存在がなぜ知られているんだ。ウィルって『今、付き合ってる子がいてー』とか『結婚したい女がいる』とか言うようなタイプじゃないと思ってたけど。
「アレハンドロだろ」
「なぜにアレハンドロさん?」
脳内にふわふわっとデュラハンで騎士のアレハンドロさんを思い浮かべる。そういえば、先週お店に来たときに、しばらく休暇を取ったとか言ってたなぁ。
「親父のスパイだからな」
「…………はい?」
ちょいと意味がわからない。なぜに父親が息子の元にスパイを? 魔王の権力巡ってとか? いや、確か円満に引き継いだっぽいことを聞いたような気がする。
なぜに、スパイ?
「俺が報告しないからだろ」
「自分のせいかーい!」
結局ツッコミ入れちゃったじゃんよ。
ウィルは、手紙は燃やしていい、腹減った、とかのたまいながらダイニングに移動した。
とりあえず今日の夕食はコカトリスの手羽元のスパイス煮込みだ。モリモリ食べなさい、と大皿に山盛りにして渡し、ウィルの向かい側に座った。
封蝋をペリッと剥がし、手紙を取り出す。
『愛しの我が義娘ミネルヴァ。ウィルフレッドとは仲良くやっているかい? 無口で無愛想だが、心根はいい子なんだよ。もうそろそろ身体への変化が現れ出した頃かな? ウィルフレッドのことだ、繊細に調整してはいるんだろうね。まぁ、そんな下世話な話は置いといて、そろそろ挨拶をしに来てくれてもいいんじゃないかなぁと思うんだよね。お義父様は悲しいよ。ケルベロスの子たちにも会いたいから、連れてきてね。ベネディクト』
「…………うぃるふれっどくん」
「なんだ?」
「お父さん、会いに来てほしいってよ」
「無視でよくないか?」
――――いいわけあるかぁぁぁ!





