88:生姜焼きと藪蛇。
ヒヨルドの予想的には、私生活とか交友関係が知りたいんだろう、ってことだった。
私生活ってなんなんだろう? 私が家でやってることとかだよね。日常生活ともちょっと違う。
「意味分からん」
「魔王が帰ってきたら、魔王に聞け。それが一番早い」
「そりゃそうだ。りょーかい」
その後、夜までお客さんたちとワチャワチャお喋りしながら営業し、お店を閉めたあとはサッと居住スペースに戻った。
ダイニングで座って本を読んでいた魔王に「たっだいまー」と挨拶しつつお風呂に直行。
上がったら頭にタオルを巻き、キッチンに向かった。
「魔王は食べるの?」
「ん、食べる」
なんとなく食べたかった豚の生姜焼きを作り、山盛り千切りキャベツを横に添える。白ごはんは山盛り!
「んっまっ! あー、いいよねー、この生姜がガツンと来る感じ。生姜焼きで正解だった。箸休めのキャベツもいいよね。一緒に食べると美味しいし」
「おかわり」
「へいほーい」
ご飯のおかわりをドドンと盛って渡す。
魔王は豚バラ肉でお米を巻いて食べる派らしい。それ美味しい食べ方だ。
「それで、聞きたかったことってなに? ヒヨルドは私生活とか交友関係だろって言ってたけど、どうなの?」
「…………」
生姜焼きを黙々と食べ続けているし無反応なので、やっぱり違うよねーって言いかけていたら、魔王がこちらを見ずにボソリと呟いた。
「………………結婚とかは?」
「へ? 結婚? 誰と誰が?」
「…………前世のルヴィと誰かが」
「誰ともしてないけど?」
「ん」
私は魔王を見つめながら答えてるのに、魔王は視線を生姜焼きに固定したまま。人の目を見て話さないと駄目なんだよ? いや、別に駄目でもないけどね、なんか悲しくはなるよ?
「魔王、言いたいことはちゃんと言おうか?」
「っ…………前世でお前に愛されたヤツがいたのか…………気になってた」
「ほむん」
「どういう反応だそれは」
いや、知ったところで、じゃない? とは思うけど、まぁ、気になるっちゃ気になるか。
「細かくは覚えてないけど、たぶん結婚してないし、お付き合いしてた人もいなかったと思うよ。そもそも、何歳でどうやって死んだのかも覚えてないけどね」
「あ……ん、すまなかった」
「いいよー」
覚えてないから、傷つきようも怖がりようも悲しみようもない。
そして、私は魔王が過去に誰かと……とかは聞かない主義だ。三百年も生きてりゃなんかはあったでしょ。魔王が話したいなら聞くけど。藪をつついて蛇を出したくないし、墓穴も掘りたくない。
「ごちそうさま!」
「……ん」
ではではまた明日。





