80:のんびりおしゃべり。
ペペロンチーノを食べて大満足の魔王だけど、口が臭い。
「……流石にちょっと傷つくぞ?」
「いや、どうあがいても臭いもん」
「…………ふん」
魔王がふいふいっと指を動かしたら、ニンニク臭がさっぱりと消え去ってしまった。
また魔法か! ほんと便利だねぇ。
「…………ふんっ」
魔王の俺いじけてますアピールが凄い!
リビングに移動するよと声をかけると、そそくさとついてくるんだからちょっと可愛いけど。
ストックで置いていたクッキーをテーブル出し、紅茶を二人分淹れて、置きっぱなしにしていた本と一緒にソファにゴロン。
うつ伏せでペラペラとページを捲って前回読んでいた場所を探す。
魔王はストレージから何かを取り出して、書き物を始めた。
「なにしてんの?」
「ん? 書類にサイン」
「ほへぇ。仕事?」
「ん。早めにサインほしがるからな。執務室の転送箱に置かれたら、ストレージに来るよう設定した。ヨルゲンが」
――――ヨルゲン?
「お前は……人の名前をちょいちょい忘れるよな」
「なぜバレた」
明らかにキョトーンとした顔をしていたらしい。令嬢とかやってたのに、感情がバレバレって拙くない?
で、ヨルゲンって誰なのよと聞いたら、ナマズのおじいちゃんだった。そいや、そんなカッコイイ名前だったね。
しかし、おじいちゃんって本当に凄い人だったんだよね。
ん? そういえば、魔王が初めてウチのお店に来たときって、ヒヨルドの格好だったよね? おじいちゃんと顔見知りじゃなさそうだったけど、ヒヨルドはおじいちゃんに仕事を頼もうとしてたんだよね?
なんで初対面みたいな感じだったのかな?
「あー。ヒヨルドが門前払い受けてたからだな」
――――門前払い?
おじいちゃん、受注しないタイプの頑固発明家?らしく、心底気に入ったものじゃないと裏から顔も出さないらしい。
そういや私のときもそんな感じ……で、直ぐ出てきたね。かき氷ウマウマしてたね。
「ん? でも、魔王は知ってた?」
「名前と顔くらいはな。二〇〇年前くらいは、あのジジイまだもうちょっとアクティブだった」
「……アクティブ」
おじいちゃん、ほぼ毎日のようにウチに来てるけど?
酷いと、って言い方もどうかと思うけど、日三回とかの日もあるけど?
「…………あいつそんなに入り浸ってたのか。暇なのか?」
まぁ……暇なのと、私から前世の調理具ネタを盗もうとしてる感、かな?
『なーなー、面白い道具思いつかんかのぉ!?』とかカウンターのど真ん中で素面でくだを巻いてるし。
「暇そうだな……」
「……まあね」
自由なおじいちゃんを思い出して、クスクスと笑って、クッキー食べて、また読書。
ペラリペラリと捲れるページの音と、魔王がペンを走らせる音。
とても静かで落ち着く。
ではお昼に!





