77:お母さんか、変態か。
タコスをもりもりと頬張る魔王を、頬杖ついて眺めていると、魔王がジッと見つめ返してきた。
「……ん? どうした?」
「んー? おいしい?」
「うまい」
コクンと頷いて、むしゃむしゃ。
魔王はサルサ多めのチーズありが気に入ったらしく、レタスをちょっと減らしてみたり、肉は減らしたくないなとか呟いたりしながら、中身の調整をしている。
魔王って、ほんと可愛いなぁ、こういう時間が幸せだなぁと思っていたら、不意に涙がポタリと落ちてきた。
――――あれ? なんでだろ?
魔王が気付かない内に止めなきゃと思えば思うほどボロボロと落ちてくる。
「……っ、ルヴィ!?」
「ごめっ、ちょ、なんでかな? あはは」
笑って誤魔化したけど、魔王が焦った顔で真横にすっ飛んできて、ギュムッと抱きしめてくれた。
違うんだよ、ただね、ホッとしただけなんだよ、って何度も伝えるのに魔王は私を離さなかった。ずっと抱きしめててくれた。
「も、大丈夫だから、続き食べなよ」
「……明日の朝食べる。フォン! 後片付けを」
「はい、まおうさま」
フォンがポフンと人型になってくれて片付けをしてくれた。ごめんね、ありがとう。
そして魔王はというと、私をひょいと横向きで抱き上げて、お姫様抱っこに。まじか、リアルにお姫様抱っことかされたら、びっくらこいて涙も引っ込んだよ。
とてとてと寝室に向かい出したけどちょっとまって欲しい。
「魔王、魔王、待って!」
「待たん」
「いや、魔王も私も結構に玉ねぎとかにんにくとか臭いんだけど?」
「……」
サルサには大量の生玉ねぎのみじん切り使ってたし、お肉にも玉ねぎやにんにくいっぱい使ってたし。
「……」
魔王が眉間に深い深い峡谷を刻み、何かをもそもそっと呟いたかと思ったら、私達を爽やかな風がふわりと包み込んで、フローラルな香りを残して消えた。
「清浄魔法と芳香魔法を使った。これでいい」
清浄魔法はわかる。別の作品とかでクリーン魔法とも言われてたりするやつだよね? ダンジョンに籠りっぱなしでも清潔に保てます!みたいな。
芳香魔法とはなんぞや!? そう聞くけど、魔王は私をチラッとみてスルーしやがった。何なの!?
「ほら、着替えろ」
寝室のクローゼットの前に下ろされ、寝間着に着替えるように言ってくる魔王。何なのお母さんなの!?
ジッと見てくる魔王の視線がうざいなぁなんて思いつつ、魔王の目の前でお着替え。何なの変態なの!?
「ほら、おいで」
着替え終わると魔王がベッドに誘ってくる。くそぉ、かっこいいなぁとか思いつつ、差し出された手を掴んで歩みよると、またもや抱き上げられ、ベッドにふわりと寝かされた。
魔王は私の横に寝そべると、そっと抱き寄せて来た。魔王の胸板に耳を付けるような形。
トクントクンと規則正しい心音。ポカポカとしたあたたかい他人の体温。「ルヴィ」と名前を呼ぶ、甘くて低い柔らかな声。
――――落ち着くなぁ。
「不安にさせてすまなかったな」
ギュッと抱きしめながら魔王が言ったその言葉と、小さく呟かれた「愛してる」というと言葉に、また涙が溢れてしまった。
臆病で馬鹿な魔王だけど、かっこいい。
――――好き。
またまたお昼にぃー





