76:ドッグフードとタコス。
魔王と瞬間移動で家に帰ってきた瞬間だった。
ドッタドタ走る足音とビュンと飛んでくる毛むくじゃらの物体。
「「わふぅぅぅぅぅ!」」
「グエッ」
なぜかフォン・ダン・ショコラに体当りされた。何でだ、酷いな。一週間ドッグフードにするぞ。
「「わっふわっふぅぅ!」」
「ん、ああ。ただいま。ん、仲直りした」
ちょい待ちフォン・ダン・ショコラくん?
チミたちは、魔王と私がどうなったかを気にしていたのかね。そして魔王が家に来たのが嬉しいのかね。尻尾がもげそうなくらい振られてるけども。
ほんで、飼い主に体当たりカマしたのかね? ほほお。ほほほん?
「……一週間、ドッグフードね」
フォン・ダン・ショコラを飼い始めた当初、食べるかなと思って買ったドッグフードが貯蔵庫に置かれたままだからね。アレ食え。
「「クキュュュン」」
「……普通に鬼畜だな」
「なにか言ったかな? うぃるふれっどくぅん?」
「何も言ってない。フォン・ダン・ショコラの通訳しただけだ」
魔王がそういった瞬間のフォン・ダン・ショコラの顔は、犬(?)なのにめちゃめちゃ絶望感にあふれていた。
「ブッ! あははははは!」
お腹を抱えて、涙目になるほど笑ってしまった。面白かったから許してあげよう。
貯蔵庫に行って、タコスの具材たちを持ってダイニングテーブルに並べていたら、フォン・ダン・ショコラがキューンと鳴くので何だと思ったら、炒めた牛ミンチを見てドッグフードと勘違いしたらしい。
「いや違うからね!?」
何故か魔王もホッとしていた。お肉のいい匂いがするのに、何で見た目だけでドッグフード扱いなのよ!
「「いただきます」」
二人で向かい合って言う、いただきます。凄く凄く久しぶり。
「先ずはね、タコス生地の真ん中にレタス置いて――――」
二十センチほどのタコス生地の上に、ふわっと掴むくらいのレタスを置き、ミンチ肉をスプーン三杯ほど、そこにサルサを同じくスプーン三杯ほど乗せて、半分に折りたたんで、ガブリ!
サルサの汁でちょっと手が汚れるくらいは気にしない! ちゃんと大きめの濡れ布巾をそれぞれに用意してるからね。
一口目、サルサの酸味とほのかな甘み、そして唐辛子の辛味がガツンと来て、肉の旨味がぶわりと広がる。
咀嚼して飲み込むと、フワッとコーンの甘い残り香が鼻の奥をくすぐってくる。
複雑でいてまとまっているこの不思議な食べ物。もう一口、もう一口と食べてしまい、気づいたらタコス四個とかぺろりと食べてしまっている、恐ろしい食べ物なのだ。
「色んなトッピングも楽しくてね、子供向けのケチャップやマヨネーズ、チーズとかも美味しいよ」
「んむむ、ふむ、ん!」
「……飲み込んでから喋りなよ」
魔王が物凄い速さで食べ進めながら、何かを言っているけど、全くわからない。ずっとモゴモゴ言いながらタコスを食べていた。
ではでは、またあしたーっ!





