72:エーレンシュタッドの夜会で。
人間界の夜会に参加するため、魔王とエーレンシュタッドの謁見室に転移した。
満面の笑みを携えて、ヒロイン(妹)が小走りでやってくる。
「お姉様っ!」
「シセル――王太子妃殿下、お招きくださりありがとう存じます」
今日は魔王のパートナーとしての参加だからね、これくらいはきちんとしておこう。
「あっ! いえ、んんっ。ごゆるりとお楽しみ下さいませ。ふふっ」
ヒロイン(妹)と二人、ちょっとだけ変なやり取りをして、クスクスと笑っていたら、予想通りというべきか、ヒーロー登場。
「やあ、ミネルヴァ嬢」
「ごきげんよう、王太子殿下」
王太子が私の右手を取り、口付けをする振りをした。キモい。そして小さな声で「魔王に上手く取り入ったものだな、流石性根の腐った悪女だ」と囁いてくる。
「お褒めいただき光栄にございます」
にっこりと笑って首を傾げて、完璧なご令嬢ムーブをかます。王太子のことだから、絶対にこういう牽制をして来ると思ったんだよね。コミック読みまくってた私を舐めんなよぉ!
王太子はヒロイン(妹)にベタ惚れしている。
ヒロイン(妹)に言い寄る男はもちろん、女にも容赦ない。わりとヤンデレ気質なのだ。だけど超絶天然なヒロイン(妹)が、ポヤポヤと笑顔でヤンデレを綺麗に相殺していくのが面白いコミックでもあった。
見てる分にはいいけど、実際相手にするとなると、ヤンデレ王子とかちょっと無理だわー。
「なっ!? 私もお前など無理なんだが!?」
「あら?」
「ルヴィ、声に出てる」
「…………おほほほ? 失礼」
エスコートで繋いでいる魔王の手がカタカタと揺れている。コイツ、笑ってんな!?と見上げたけれど、顔はスンッとしていた。器用だね?
国王陛下や王妃殿下、両親などに挨拶し、正式に魔界で生きる宣言とそれでいいという言質を取った。
「確かに……名目は魔界送りの刑だから……うむ」
やはりエーレンシュタッド国内では『魔界送り=死刑』の認識ではあったらしい。私一人ガッツリ生き延びる気満々だっただけで。そして、計画通りに生き延びている。
両親は少し寂しそうな顔をしていたものの、一度魔王に追い返された時に軽く挨拶はしていたので、直ぐに納得してくれた。
一番の問題は王太子とヒロイン(妹)。
王太子は私への刑が軽すぎる、ただ魔界に行って悠々自適に過ごしているだけではないかと声を大にして怒鳴り出した。
ヒロイン(妹)は何か違うベクトルで生きているので、「お姉様にずっと側にいてほしいのに……簡単に行き来できる方法はありませんの!?」とか魔王に無茶振りを言っている。
「……カオスね」
「お前のせいだろうが!」
王太子に突っ込まれ、確かにっ!と納得したのは仕方がないと思う。
んでは、夕方に。





