71:盛装して出発。
魔王と朝ご飯を食べたあと、のんびりとソファで過ごしていたら、部屋のドアがノックされた。
横並びでくっついて座っていたのに、魔王は瞬間移動でテーブルを挟んだ向かい側のソファに行ってしまった。
――――なんでよ?
じっと魔王を見つつ、入室の許可を出していて気付いた。
そっぽを向いている魔王耳がちょい赤い。
――――照れてんのかーい!
「ミネルヴァ様」
「あっ、はーい?」
「湯浴みにご案内してもよろしいでしょうか?」
侍女さんたちがチラリと魔王を確認しつつも、私のお世話を優先してくれるらしい。お願いねと返事をしつつ魔王に手を振ると、更にプイッとされてしまった。
「っ、ふふふっ!」
「ミネルヴァ様? どうかされましたか?」
服を脱がされている時に吹き出してしまい、侍女さんたちに怪訝な顔をされてしまった。
てか、普通のブラウスとスカート姿で、コルセットも何もはめていないのに服を脱ぐのを手伝われるのってどうなのよ?って思うけど、そこは令嬢パワーでやり過ごす。
「さっき魔王が照れてたの、思い出しちゃって」
「あー……」
侍女さんたちが顔を見合わせて納得しつつ苦笑い。
そりゃそうだ。
ブラウスと肌着を脱いだらあらまぁ大変、大量の虫刺され!?みたいな事になっているんだもん。
「陛下、浮足立ってましたものね」
「ふふっ。朝食を急かす姿をお見せしたかったです」
なにそれ、裏でそんなことになってたの?
いや、マジで見たかった!
侍女さんたちとキャッキャとお話しつつ入浴を終わらせ、謎のマッサージで全身揉みまくられ、なんかいい匂いがするクリームを塗りたくられ、コルセット締め。
――――グエッ。
久々に地獄を見た。
肋骨をギッチギチに締められ、お腹を更に締めまくられ、内臓が移動する妙な感覚を味わいつつ、一旦休憩。
「よし、着るわよ」
「「はい」」
気合を入れて、魔王が送り付けてきたドレスを着る。
真っ赤なAラインのドレス。
赤は魔王の瞳の色。
銀色の刺繍は、きっと魔王の髪の色。
「キスマーク、きれいに隠れたわね……」
「計画的ですね」
わかりやすい独占欲。ちょっとだけ可愛く感じてしまうんだから、どうしょうもない。
「ん、似合っている。これ着けて……ん」
着替えを終えたところで、盛装した魔王が部屋に来た。コミックで見慣れていた姿だけど、やっぱりカッコイイ。
魔王が一瞬だけ破顔したあと、キリリッとした表情を取り繕ったのがまる分かりで、笑ってしまいそうになった。
差し出されたダイヤモンドのジュエリーを侍女さんに着けてもらい、ご令嬢ミネルヴァ完成。
「行くぞ」
「へいほーい」
魔王と手を繋いで瞬間移動した。
「あれ? ここって……」
エーレンシュタッド王城の謁見室。
かなり大きな広間で、私が魔界送りの刑に処された場所でもある。
「お姉様っ!」
あー、来た来た。
憎みきれない、可愛い可愛いヒロイン(妹)。
ではお昼に〜。





