70:魔王城飯とミネルヴァ飯
朝、目が覚めると目の前は肌色。まぁ、魔王の胸板なんだけども。
ちらりと視線を上にずらすと破顔した魔王。
――――うん、エロい。
「もうしばらく休んでおけ。準備の時間になったら、侍女たちが呼びに来る」
魔王が脱ぎ捨てていた服を羽織り、ヒュンと消えて行った。どこに行ったんだろうなぁとベッドの上でボーッとしていたら、焼き立てのパンとスープ、サラダ、オムレツ、カットフルーツの盛り合わせなどを持って戻ってきた。
「朝飯」
「おお! ありがとー。魔王城飯だー!」
きっちりと服を着て、ソファに移動して、いただきます!
「パン、うんまっ! 何このふかふかさ!」
見た目は普通のバターロールだったけど、何ともいえない麦の香ばしさと甘さ、指を程よく押し返す弾力。
前世でいう、石窯で焼かれた高級なパンみたいなヤツだった。
バターを軽く塗って食べるだけで、もう満足!
くるみパンやクロワッサンなんかも、どえらく美味しくて、もりもりと食べてしまった。
「はぁぁぁん、何このスケスケ黄金色のコンソメスープ! めっちゃ美味い!」
「……そうか?」
魔王が首を傾げながら、モッサモッサとパンを食べ、オムレツを食べ、溜め息を吐いている。何故にローテンション?
「うんまぁぁぁぁ!」
オムレツが口の中でとろけた。
バターと混ぜ込まれた粉チーズで深みが生まれているのはもちろん、焼き方も凄い。表面はシワも破れ目もなく、ツルンとしている。
私、こんなに美しく焼けない。
カットフルーツは普通に美味しかった。
ただのカットフルーツだしね。
総評は、魔王城飯は恐ろしい!
「確かに高級な食材は使っているし、技術もあるだろうが…………美味いか?」
「へ? いや、めちゃくちゃ美味しいけど?」
「ん………………俺は、ルヴィの飯の方が好きだ」
――――ぐはぁぁぁっ!?
まさかのデレ! 魔王のデレ!
魔王の胃袋、めちゃめちゃ陥落してるじゃん。
確かにカレーと唐揚げのときから陥落気味ではあったけど。
「そういえば……魔王と食べたいなって思ってたタコス、貯蔵庫に入れっぱなしだった……」
あのときの嫌な気持ちを思い出しそうで、居住スペースの貯蔵庫の隅に追いやったままだった。
帰ったら、一緒に食べようねと言うと、魔王がまた破顔してコクリと頷いたのが、とてつもなく可愛かった。
明日からは人間界に〜。





