44:魔王の想い。
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ルヴィが各家庭でオリジナルのカレーを作ることを推奨していた。
俺は――――。
「俺は、ルヴィの作ったカレーでいい」
「っ!?」
俺はルヴィが作ったものを食べていたい。
今まで食べたどんなものよりも、格段に美味いから。
魔王城ではいい素材も使っているし、腕が確かな料理人たちばかりだ。だが、味気ない。
ただの高級な料理だ。
ルヴィの料理は全く違う。
材料はわりと安めのものを使っているし、本人もそう公言している。原価と売価などかなり考えて営業していた。
そんな安価な原材料なのに、異様なほどに美味い。
身体に染み渡るような、暖かな味がする。
一切の魔力がないただの人間のルヴィ。
不思議なことに、ルヴィの手料理を食べた魔族は、ありえないほどの魔力回復を体感する。
そして、虜になる。
俺は誰かが作ったよくわからない何かより、ルヴィが作ったものがいい。
そう思っていたら、口から零れ出ていた。
「ありがと。ヒヨルドに告白された気分になっちゃった! あははは!」
真っ赤な顔のルヴィ。
ウエーブした黒い艷やかな髪をひとつまとめにしているから、表情がよく見える。
頬を赤く染め、視線を彷徨わせ、少し俯いてはにかんだ。『ヒヨルドに告白してもらえた気分を、味わえた』と。
――――ああ、そうだった。
他人がいる時は、ヒヨルドの姿を取っていたんだった。
俺は、ミネルヴァとヒヨルドが話している姿を直接見たことがない。
アイツとは、こんな顔をして話していたのか。
あぁ、全てを破壊しつくしたい。
こんなにもどす黒い想いと、衝動に駆られるのは久しぶりだ。
何もかもが塵と化し風に飛ばされて、この世から消えてしまえばいいのに。
気付けば、王城に戻ってきていた。王城は王城でも、ヒヨルドの執務室だったが。
「魔王?」
「…………死ね」
「ちょっ!?」
掌に氷の短剣を作り出し、飛ばす。
ヒヨルドがちょこまかと逃げ回るせいで当たらない。
見た目は不健康そうな痩せ型で、色白。どう見ても弱そうなのだが、実はそこそこに強い。そして、口が驚くほど悪く態度がデカい。
可愛らしい見た目とのギャップが良いとかで女に良く言い寄られている。
それを分かっているから、基本は弱い振りをしている。
――――本当に、嫌な男だ。
「おい、まてって! なんっ!? ちょっ、まじで」
「いいから、死ね」
「いや、死ぬか! アホか! まじふざけんなよクソ魔王が!」
やっと本性を現した。
拳ほどの火球を十発連射してきたが、相殺する。
さっきから俺は氷の短剣を一本ずつしか投擲してないのに、十倍返しだ。
「お前みたいな性格の悪いやつが、なぜ愛される」
「はぁ? 知るか!」
「お前の本性を、ミネルヴァは知っているのか?」
「――――は? 何の話だ?」
「ミネルヴァを泣かせるのは……我慢ならん」
「いや、マジで何の話?」
キョトンとして可愛らしい顔をしながらも、火球は連射してくる。
――――ミネルヴァ。本当に、こんなやつがいいのか?
またお昼にー。
台風、でーじょーぶかなぁ。





