29:誰だそれ。
魔王になった偽ヒヨルドに手を引かれ、貯蔵庫に入った。
…………狭い。近い。何か良い匂いする。
「食材と料理は取り敢えずストレージに入れるが、他の必要なもの、不必要なものの指示をしろ」
「え!? っとぉ――――」
もとから設置されていた棚はぶっちゃけそんなに使い勝手がいいものでもなかったので、この際に買い替えることにした。
その他に処分するものは特になかった。そもそも食材置き場なので、ゴミやらなんやらは置かないように気をつけていたしね。
棚は一度ストレージに入れておいて、後で処分してくれるらしい。ありがたや。
「拡張する」
特に何の前置きもなく、急に拡張を初めてしまった。
せめて『始めていいか?』とか『始めるぞ?』とか薄っすらでいいから確認してくれても良くないかな?
魔王が壁面の魔法陣に手を触れると、魔法陣が紫色に淡く輝き出す。そうして一分ほどすると、急にブワリと貯蔵庫の壁が眩い光を放った。
「まぶっ!」
「ん、終わった」
「はやっ!」
チカチカとする目をコシコシと擦ってから開くと、そこはかなり広い真っ白な部屋だった。
「うんわぁぁ! すごい! すごいよ! 偽ヒヨルド!!」
「……ウィルフレッド」
「なに?」
急に人名を言いだした。誰だウィルフレッド。
「偽ヒヨルドじゃない」
――――お前か!
「え? 魔王の名前?」
「ん」
「なるほど」
「…………」
へーそんな名前なのね、と返事したのだけど、なぜか眉間に皺を寄せられた。
「でさ、偽ヒヨルド!」
「……」
「聞いてる?」
「…………ウィルフレッド」
「あぁ! そゆこと。でさー、ウィル、ちょっとここで待っててくれます?」
カッと目を見開いて、なぜだと問われた。
棚を処分することにしたから、貯蔵庫はすっからかん。並べる棚がない。取り急ぎ買いに行かないと。
「一緒に行く」
「え、いいの? ストレージで運べたりします?」
「……ん」
なぜかまたもや手を繋がれた。
このまま行く気らしい。が、ちょっと待ってほしい。
「ん?」
私は、寝間着である!
ちょっとシンプルなワンピースではあるが、これは紛うことなき寝間着である。
休みの日に、寝起きにキッチンでご飯食べようとしてたんだから、寝間着のままなのである!
「……」
「着替えてきます」
「うん」
なぜだ。なぜにそんなにもしょんぼりとした顔をされないといけないのだ。
寝間着だったのかよ? 起きてきたの昼だったが? 女子力が低すぎる?
どれだ? 全部かな!?
またお昼に〜





