26:勝手に――――。
夕方、おじいちゃんが申請書を持ってきてくれた。
優しい! ありがたい!
お礼はと聞いたら、そんなもんいらんと照れながら足早に消えていってしまった。
営業が終わったあとに申請書を確認。
住所と名前と、時空停止保管庫の広さと、魔法陣のシリアルナンバーの記入欄がある。
――――シリアルナンバー?
貯蔵庫の壁にある魔法陣をよくよく見ると、魔石をはめる場所の右下に小さく数字と魔術文字が書かれていた。が、魔術文字なぞ読めない。
魔術文字は、前世で言うところのタイで使われているシャム文字みたいなふにょんふにょんした文字だ。
ジッと見たところで書き写せもしなかった。
これは、またもやおじいちゃんにヘルプ案件だなぁ。
「しょんぼりよ、しょーんぼり」
「「ワフゥ?」」
「私、魔術文字が読めないのよ」
普通の文字は人間界も魔界も共通なのに、魔法関連だけは全て魔術文字が使われている。
どうにもこうにも、前世の私も今世の私も、言語系の勉強が苦手。
仕方ないと諦めて、フォン・ダン・ショコラと共に居住スペースに戻った。
翌日、おじいちゃんの協力のもと書類を書き終わらせた。配達便を使って魔具庁に送信したので、あとは連絡があるのを待つだけだそう。
そこから火星まで、特に何のトラブルもイベントもなく、普通にちょっと忙しい日々を過ごしていた。
水星の日、今日は特にやることもないので、久しぶりにお昼すぎまでベッドでゴロゴロ。
そろそろお腹が減ったなぁ、と思ってキッチンに向かったら…………。
「いや、普通に居すぎじゃない?」
「「バフゥ?」」
「アンタじゃなくて、偽ヒヨルド!」
「ああ、俺か」
突っ込む相手は偽ヒヨルドしかないないでしょうよ。
一人暮らしの乙女の家のダイニングテーブルで、優雅に足を組んで座って、普通に書類を開いて何かを書き込みながら、コーヒーを飲んでいた。
「勝手に飲んでいいと言われた」
「フォン・ダン・ショコラ……」
言うんならコイツらだろうなと思ったけど。ジロリと睨むと、三頭ともに耳をヘションと垂れさせて、またもやフレブル座り。チッ、可愛いじゃないの。
「何か作るのか?」
「…………作るけど」
「ん。食べる」
「…………いいけど」
よくわからないままキッチンに立ち、よくわからないままに、チキンを焼きながら、ハニーマスタードソースを作った。
食パンを焼き、居住スペース側の貯蔵庫にストックしていた野菜たっぷりのコンソメスープと、サラダを二人分用意してハッと気付く。
――――私、何やってんの?
ではでは、またお昼ぅ。





