77:三人の働きっぷり
翌日、朝から特訓開始。まずは三人だけで開店準備をしてもらった。さすがに一〇年以上やっているので当たり前に出来ている。
接客も問題ない。
となると、注文されたものの準備だけど、これも完璧なのよね。注文を受けたらカウンターの番号と知っている人は名前も書いておく。それをボードに注文順に並べて張るようにしているし、そもそもが狭い店なので間違いようがない。
会計も、ある程度は同価格帯にしているので間違いはほとんどない。
そういえばお店を始めたころは、三人とも足し算さえも出来なかった。というか、魔獣だったんだから出来るはずもないんだけど、教えたらサクサク覚えたのよね。
ウィルが驚いていたっけ。
たとえ人型になれたとしても、頭脳は魔獣のころと同程度のはずだと。ケルベロスが特段頭がいいとかはないとウィルは言うけれど、人型になる前から結構にしたたかで、聡い子たちだった気がする。
「ありがとぉございましたぁ」
ブンブンと手を振ってお客さんを見送るショコラの声でハッとする。昔のことを思い出していたら、思考の深いとこに沈みかけていた。
残る問題は、その場で作る系のオムライスだけど、数年前から練習をしていたフォンが、完璧に作れるようになっている。
どう考えても、普段の営業は私がいなくても安心して任せられるようになっていた。
◇◇◇
そんな事があってからの月曜日。
さすがに、いきなり三人でさあどうぞ!ってわけにもいかないので、外の立て看板にはフォン・ダン・ショコラたちの研修中と書いて、私はカウンター席の端に座り、店内を見守るという形にした。
開店したてで来店したおじいちゃんに何のイベントだと聞かれて、説明すると「また突拍子もないことをやっとるな」と呆れ半分で笑われた。
これは三人の希望なんだと伝えると、おじちゃんが目を見開いて驚いていた。
「ふむ。確かに、ずっとこのままというのも駄目だろうしの。将来のことを考え始める年齢なんじゃろうな」
「そうなのよね。それで思い切って任せてみようかなって。今日はお試しだけど、そのうち全部任せられるのなら、それもいいかなって考えてるわ」
「ふぅむ。そうなった場合、お主はどうするんじゃ?」
「ウィルとのこれからを考えるんなら、魔王城の敷地内とかで定食屋をやるのもいいんじゃないかなって」
敷地内なら、一般の魔族の人も出入り自由だし。ウィルの目は……まぁ、いつどこにいても届きそうだけど。
懸念は、フォン・ダン・ショコラたちと離れ離れになっちゃうこと。淋しいとは思っちゃうのよね。
「それでも定食屋をやるのはやるんかい」
「当たり前じゃない! 定食屋が私の夢なのよ!?」
「うはははは、魔王も大変じゃのぉ」
「何よぉ。譲歩はしてるじゃない」
おじいちゃんとそんなふうに雑談しながら、三人が自分の役割を確認しつつ働く様子を見守った。
フォンは、店主的な仕事。基本の調理と注文されたものの配膳指示を的確に。
ダンは、接客メイン。注文と貯蔵庫でのセット作りと配膳を、いつも通りぶっきらぼうに行っていた。
ショコラは、デザートと会計。かき氷などのトッピングやプリンアラモード作りと、お会計の担当をニコニコとこなしていた。
そして、お互いに間に合ってなさそうだと思ったら、当たり前に手伝いもしていた。これは便宜上のものだから、絶対こうしなきゃはないよ、と以前から口を酸っぱくして言っていたので、きっとお互いにフォローすることが当たり前になっている。





