76:八年が経ち……
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おじいちゃんとちょこちょこ進めていた冷蔵庫の開発。完成形は前世のものに近い感じで、上段が二つ扉タイプの冷蔵室、下段が引き出しタイプの冷凍室二段にしてもらっていた。
この冷凍室のおかげで、デザートやアイスクリーム作りが格段に楽になった。確かにウィルがいたら速いんだけど、こっそり作りたい時だってあるのだ。
あと、ちゃんとしたレシピを覚えてなくて、トライアンドエラーしたいときとか。
ウィルって、失敗作も食べたがるのよね。嬉しいんだけど、ちょっと恥ずかしいという気持ちで複雑な気分なのよね。
「さて、そろそろ冷めたかしら?」
「ルヴィちゃん、座って作業してよ」
「はいはーい」
妊娠して八年。なんだかやっと出産に近づいているらしい。
フォン・ダン・ショコラたちは随分と成長して、もう私の肩くらいまで大きくなってしまった。そして、言葉も詰まることなく話せるようになっている。
随分とお兄ちゃんになってきたものだ。
それなのにお腹の中の娘といえば、まだまだ眠っていたい気持ちと、出て来たい気持ちで揺らいでいるとかで、随分とのんびりした子のよう。
それでも最近は、胎動が激しくていわゆる臨月になっているのだとか。
当初は長くて三年くらいかなとか思っていたけれど、いつの間にか倍以上の時間が経っていた。
「うーん。なんだかんだで下準備を始めたけど、終わっちゃったわね」
「ルヴィちゃん、僕たちだけでお店やってみたい」
育児中は、営業できそうな日だけ営業するスタイルにしようかなと思い、メニューを少し絞ってストック作りをしていた。
そのストック作りも終わって、お客さんの少ない四時にちょっと暇を持て余していたのだけど、そこでフォンからまさかの提案というか、お願いされた。
フォン・ダン・ショコラたちは、一〇年以上も定食屋のお手伝いをしてくれている。ほぼメインの従業員だし、割と私がいなくてもちゃんと接客出来ている。
フォンに至っては数年前から、オムライスを作ってみたいとか、唐揚げを揚げてみたいとか、お魚の焼き方を教えてとか言うようになってた。
料理に興味があるのか、お小遣いで本を買ったり、私に聞いたレシピをノートに書いたりしている。
ダンはどこまでも味見専門だけど。相変わらずぶっきらぼうな接客は、割と受け入れられている。
なんだろう、たぶんみんなやんちゃしている孫を愛でているような目線。
ショコラは、デザート系はよく作りたがっていて、一緒にあーだこーだー言いながらクッキーの型抜きしたり、チーズケーキにかけるソースを争って、じゃんけんしたりしている。
もしかしたら、三人で協力したらお店をやれるかも?
誰よりも真面目で、ちょっと我慢癖のあるフォンのお願いは、叶えてあげたい。
「もし、ダンとショコラもいいって言ったら、来週の月曜日、三人でやってみる?」
比較的お客さんが少ない月曜日なら、もしかしたら回せるかもしれない。
今日は金曜日、土日で役割決めをして実際に動いてみて、月曜日に本番にしてみようかとフォンに聞くと、ブンブンと尻尾を振って喜んでいた。





