75:お腹の中のに。
「陛下、ミネルヴァ様の腹部に手を当て薄く、ごく少量の探知魔法をお使いください」
「…………は?」
ぽかんとしたままのウィルが私のお腹に手を当てた次の瞬間、ボロボロと涙を零し始めた。アレハンドロさんは苦笑いをしながら、失礼しますと言ってサロンを出て行ってしまった。
「あのぉ、ウィルフレッドさん?」
「っ、馬鹿」
「いやなんでよ」
なんで罵られたんだと苦情申し立てをしていたら、ウィルにぎっちりと抱きしめられた。
「気付けよ……馬鹿」
「だから、なにが!?」
「鈍感」
そう言った次の瞬間に、深く深く口付けをされた。苦しいからとウィルの背中をタップしていたら、少しだけ唇を離してくれた。
「妊娠してる」
そう言われてびっくりしていたら、返事をする間もなくまたキスで唇を塞がれてしまった。
二度目の背中タップ。
「本当に?」
「ん」
「ええ?」
「まだ一ヵ月だが、いる」
一ヵ月は流石に気付きようがない。アレハンドロさんもよく分かったねと聞くと、たぶん探知魔法を使いつつコソコソ警備していたから、新たな命の気配に気付いたんだろうとのこと。
「わぁ、そっかぁ。いるんだぁ」
全く実感はないけれど、魔力に長けた二人が言うんだから間違いないんだろう。お腹を擦ってみたものの、一ヵ月では何も分かるはずもなく、そういえば小腹が空いたなくらいしか感じなかった。
◇◇◇
私の妊娠は、瞬く間に魔国に広がっていった。主にフォン・ダン・ショコラたちのおかげで。
自分たちに弟が出来るのだと大喜びで言いふらしている。おじいちゃんが大丈夫なのかと聞いてきたので、いまの魔界内で魔王に勝てる人がいるのかと聞くと、大笑いしながらいないと断言された。
「しかし、一年経つのにまだそこまで膨らまんのじゃのぉ」
「こればっかりはねぇ」
魔族は、妊娠期間が一定ではないらしく、種族や個体によって数年単位でバラつきがあるらしい。
私のお腹の膨らみ方は人間でいうと、まだ五ヵ月くらい。ちょっとだけ膨らんできたな程度。
ウィルもけっこう長くお腹の中にいたらしいので、私も同じくらいかもなんて言われている。
「まぁ、魔王の加護やらなんやらあるじゃろうが、気をつけて過ごすんじゃぞい?」
「はーい!」
お店は働ける間はちゃんと働きたいので営業している。ウィルもそれでいいと賛成してくれている。ただ、営業時間は七時までに変更した。自分たちやフォン・ダン・ショコラとの時間を確保したいから。