72:ダンス
何やら満足したらしいウィルが私の横に戻ってきたけど、会場のざわめきはまだ収まらない様だった。国王陛下には丸投げしてごめんなさいと心の中で謝っておいた。
「ねぇねぇ、るゔぃちゃん、あっちでおんがくなってるの、なに?」
ショコラがドレスのスカートをツンツンと引っ張り、ボールルームの方を指さしていた。
「あっちの部屋はね、ダンスをするところよ」
「だんす? みてみたい」
「いいわよ。行きましょうか?」
「ん!」
フォン・ダン・ショコラたちに言ったのだけど、ウィルが返事した。あれ? そういえばウィルとダンスってしたことないかも。前に参加したときは割と早めに戻っちゃったし。
「ウィル、ダンスしてくれる?」
「それは俺のセリフなんだが? どうしてそこで男らしいんだ」
そんなこと言われてもと頬を膨らませていると、ウィルが耳元に顔を寄せ、柔らかい声で囁いてきた。
「ミネルヴァ、俺とダンスしてくれないか?」
「っ、い……いいわよ?」
「ふっ。顔が赤いぞ?」
いたずらが成功したように笑うウィルはちょっとだけ憎たらしい。
手を繋いでフロアに入り、ホールド。音楽に合わせてゆったりと動くと、ウィルが流石ご令嬢だなと微笑んだ。
そりゃあ結構長い間、王太子の婚約者をしていたもの。ある程度は身体に叩き込まれているのよね。
それよりも驚きだったのは、ウィルが踊れたこと。人間の国に招待されることも多いので、幼いころからマスターさせられていたらしい。
ふと、フロア内で踊るヒヨルドが視界に入ってきた。その横では可愛らしい女の子とダンスしているフォンがいた。そしてその直ぐ側にはダンと踊るショコラ。
謎すぎる。
アレハンドロさんはと言うと、話しかけてくるご令嬢を素気なく断りつつ、視線はしっかりとフォン・ダン・ショコラたちに向けられていた。
「あははっ。楽しそうね」
「ヒヨルドは何やってるんだか」
ヒヨルドも一応フォンの側から離れないよう、こっそりとダンスを誘導しているっぽい。相手のご令嬢はヒヨルドの顔をぽーっと見つめているだけだし、きっと大丈夫よね。
曲はスローナンバーに変わり、ウィルと身体を寄せ合ってゆったりとダンス。
フォン・ダン・ショコラたちのことは二人に任せて大丈夫なようなので、いまはウィルとはじめてのダンスの時間を堪能させて欲しい。





