70:魔王の凄さ
式典が終わり、国王陛下が差分を戻す手続きを取ろうとしていたけど、ウィルが必要ないと断っていた。
「自分たちで使うも、国民に下ろすも好きにするといい」
「心遣い、感謝いたします」
「ん。それから新たな家族を迎えるらしいな。よかったな」
「ええ、本当に楽しみにしております」
なんでか国王陛下と会話するときのウィルって妙に年上感というか、ジジ臭さがあるよなぁと思ったけど、そりゃそうだった。ウィルって国王陛下が生まれる前から魔王してるんだった。
そんな失礼なことを考えていたら、シセルがこちらに駆け寄って来ようとして躓いて転けそうになっていた。
「シセルッ!」
「あらぁ?」
どういう訳か転けるような格好のままで空中にふわりと浮いたシセルが、助けようと駆け出していた王太子殿下の腕に納められた。
ウィルを見ると澄ました顔で知らんぷりをしていたけど、どう考えても魔法を使ったのはウィルしかいないのでお礼を言うと「お前の大切な家族だからな」と頬を撫でられた。
こういうとこ、本当にイケメンすぎて辛い。
王太子殿下と私に怒られしょんぼりとしたシセルがウィルにお礼を言いつつ、子どの性別の話をしていた。
「そういうことでしたら、夜会で発表していただいてもよろしいですかな?」
「ん、構わん」
国王陛下いわく、魔王の凄さは各国充分に理解はしているが、必要以上の畏怖を抱いているものもいる。魔王は優しいんだというのも知ってほしいのだとか。
いや、私も時々恐ろしいなと思うことはあるのですがな、基本的に息子のせいなので、とか口を滑らすところは結構お茶目だ。
夜会の前に一度控室に戻ると、フォン・ダン・ショコラたちが何やら楽しそうにお菓子やお惣菜みたいなものを食べていた。
「あら、出店で買ったの?」
どうやら広場や王城を少し出たところにも沢山の出店があったらしい。
案内に付いてくれていた侍女さんたちが、キャッキャと騒ぐフォン・ダン・ショコラたちを見て微笑んでいた。
「ごしゅじん、これうまいぞ!」
ダンが差し出してきたのは串に刺された豚肉だった。スパイスがしっかりと練り込まれてていて、美味しそうな匂いが漂っている。フォンはクラムチャウダースープを、ショコラはショコラティーヌというクロワッサン生地にチョコレートを挟み込んで焼いた菓子パンを食べていた。
「しょこらとおなじなまえだったの!」
「ほんとねぇ。美味しい?」
「うん! さくさくだよー」
ショコラが一口どうぞと差し出してくれたので、はむっと齧り付くと、クロワッサンの層がサクサクパリパリと小気味よい音を出した。そして中はちょっともっちりとしていて半溶けのチョコレートとの相性もバッチリ。
「んんーっ! 美味しい」
「でしょー?」
夜会までまだ時間があるので、私も少しだけ分けてもらって腹ごしらえした。
たぶん頼めば軽食なんかも出してくれるんだろうけど、フォン・ダン・ショコラたちはこういうのの方が喜びそうなのよね。