67:久しぶりね……って、え?
このツンツンウィルはなんとかならないものかなぁと思いつつため息を吐き、サロン内に目を向けるとシセルが満面の笑みで両手を広げてこちらへ向かってきていた。
「お姉様!」
「シセル! 久しぶりね……って、え? お腹っ」
久し振りに会ったシセルのお腹が大きく膨らんでいて、妊娠しているのだと直ぐに分かった。
シセルはいたずらっ子のように笑いながら驚かせたかったのだと言って、一度抱き着いたあとに私の手を取り自身のお腹に当てた。
「いまちょうど動いたわ! この子もお姉様に会えて嬉しいみたい」
「わぁ!」
当てた手のひらをグニグニと押し返すような感触。シセルいわく、蹴っているのだとか。ときどき足の形が分かるくらいに蹴るのよなんて、嬉しそうに笑っていた。
「ここ、あかちゃんいるの?」
「はじめまして、貴方は……ショコラちゃん?」
「うん、しょこらだよ! なんでしってるの?」
「ミネルヴァお姉様がお手紙で教えてくれているの」
「そうなんだぁ。ねぇねぇ、しょこらもさわっていい?」
「ええ、いいわよ」
シセルのお腹をそっと触ったショコラの耳がピルピルと動いているのを見て、シセルが「やだ、かわいい! 頭とか撫でても怒らないかしら?」と小さい声で聞いてきた。喜ぶわよと伝えると、キラキラとした笑顔でそっとショコラの頭や耳を撫でて悶えていた。
フォン・ダン・ショコラたちは人型と言えど、耳や尻尾、牙もしっかりとある。少しだけ怖がられてしまうかもと思っていたけれど、シセルは可愛い可愛いとしきりに呟いては、フォンとダンにも挨拶しつつ撫でまくっていた。
「あっ! 魔王陛下、挨拶が遅れました! 本日は――――」
「ふっ。堅苦しい挨拶はいらん。久しぶりの再会なんだ、気にするな」
「ありがとう存じます」
ウィルが後ろのウサギと長髪は護衛兼見守りだから気にするなと付け加えていた。
「お姉様……」
「え、なに?」
シセルがプルプルと震えながらこちらを見てきたので、何か怒られるのかなと思ったら、ヒヨルドとアレハンドロさんがイケメンかつ長身すぎて、夜会に参加するご令嬢たちが倒れるとか言い出した。
「そんな馬鹿な……」
「お姉様は、魔王陛下のお側にいるから分からないというか、感覚が麻痺してるんですよ! 夜会に参加したら、絶対に入れ食い状態になりますわ!」
「いやでも、魔族だし……」
未だに人種の壁のようなものはあるじゃないのと言うと、確かに少し前まではそうだったが、私とウィルがあまりにも幸せそうだから、いまはかなり軟化しているというか、羨ましがられているらしい。
「そんな、現金な」
「こういう垣根は、女性といいますか恋する乙女がぶち壊して乗り越えますのよ」
「なるほど」
説得力がありすぎて、一瞬で納得してしまった。





