64:ただいま
小さなドライアドさんが祭壇の上に手を伸ばしながら背伸びをし、フォンの額に手をかざした。すると、マントのように広がっていた蔦からワサワサと葉っぱが生え出した。
黄色い大きな花が咲き、花の根元がぽっこりと瘤のように膨らむと同時に徐々に花が枯れてゆき、その瘤がどんどんと膨らんでいく。
深い緑と鮮やかな緑の縞模様のような実が徐々に大きくなっていき、前世でいうバスケットボールより二周りくらい大きくなったところでスイカが自然と蔦から切り離され、フォンの魔力の吸い取りが終わった。
「え、こんなにいいんですか?」
出来上がったスイカを半分ももらってしまい、契約と違うのに大丈夫なのかと聞くと、小さなドライアドさんがまたひとつスイカを持ってきて、グイグイと渡してくれた。
「よい。そやつ、泣くほど嬉しかったらしいえ。もらってやってくれ」
小さなドライアドさんを見ると、涙目なものの満面の笑みを向けてくれた。
「じゃぁ、お言葉に甘えるわね。ありがとう」
お礼を伝えると、小さなドライアドさんが顔を真っ赤にして走って逃げてしまった。
「あれ? 嫌われた……?」
「んはははは! 逆だえ。またいつでも来なえ。面白い生き物は好きだえ」
族長さんから、なぜか面白い生き物というものに分類された。ウィルいわく、気に入られただけだから気にすることはないらしい。
族長さんや他のドライアドさんたちにお礼を言いつつ、到着した高速移動馬車に乗り込んだ。大量の果物たちはウィルのストレージに入っているからいいとして、問題はフォン・ダン・ショコラだ。
三人ともに、しょんぼりとして座っている。どうやら大人な身体が良かったらしい。
「無理やり成長させた体だと、どこかに不調が出る。大人しく成長を待て」
「「はぁい」」
渋々な声だったけど、素直に返事はしていた。私は出来ればゆっくり三人の成長を見守りたい。そうお願いすると、三人ともニヨニヨしながら「しかたないなぁ」と言ってくれたので、ありがとうと抱きしめた。
しばらくしてフォン・ダン・ショコラたちがうとうとしだしたので、ウィルがケルベロス型に戻るよう言っていた。到着したときに寝こけた三人運びたくないとも。いやまぁ、それは分からなくもない。それに対してフォン・ダン・ショコラたちは「わかったー」とあまりにも素直な反応。なんていい子に育ったんだ。
久しぶり……と言っても一週間だったけど、久しぶりの魔国の空気を吸って、なんだかどこの地域も空気の匂いが違うんだなと気付いた。
「「ただいまー!」」
フォン・ダン・ショコラたちがそう言いながらバタバタと走って家に入ったのを見て、なんだか嬉しくなった。
色々あったけど、概ねとても楽しい旅行だった。
「うん、帰ってきたね!」
「ん。ちょっと城に行ってくる」
「はーい」
案の定全く起きなかったフォン・ダン・ショコラをウィルが部屋に運んだあと、三人が急成長した件について魔法に詳しい役職の人に話してくると魔王城に出かけた。
荷物はリビングに出してもらったので、お店で使うものや家で使うもの、それぞれのお土産などを分類して片付けたり、洗濯物を洗ったりして最後の休みの日を終えた。