63:小さなドライアドさん。
「うおー! すげぇ、すげぇぜ! オレもやる!」
果物が出来たことになのか、ショコラが縮んだことになのかは分からないけれど、ダンが尻尾をブンブンと振り回して興奮していた。
「誰か吸いたいものはおるかえ? ワタシはもう満足だえ」
族長さんがそう言うと、腰から羽のような枝を生やしたドライアドさんがスッと前に出てきた。
「おぉ、お前の実は最近食べておらぬな。楽しみだえ」
族長さんが笑顔でそう言うと、他のドライアドさんたちがコクコクと頷いて微笑んでいた。何やら珍しい果物が出来るみたいな反応だ。
ダンがいそいそと祭壇に寝転がると、腰羽のドライアドさんがダンの額に手を翳した。
族長さんが私たちに少し離れるように言うと、腰羽のドライアドさんの枝が羽ばたくように広がり、枝からニョキニョキと細い棘のようなものが生え、ポポンと白く小さな花が密集して咲いた。
甘酸っぱい柑橘の匂いに加えてミントのような清涼感もある。これまたどこかで嗅いだことのある匂い。
花が終えると同時にライムのような実が出来て、徐々に大きくなっていく。両手で包めるくらいの実が徐々に黄色く色付き匂いが強くなって、やっと分かった。
「柚子だ! えっ、わっ! 柚子っ!」
ものすごく懐かしい匂いに、ちょっと鼻の奥がズンと痛くなった。好きだったのよね、柚子。お菓子にもお料理にも使えて便利なのはもちろん、温泉にぷかぷか浮かせた柚子風呂なんかも好きだった。
「なんだえ、そんなに好きなのかえ?」
「はいっ!」
「うふふ。休眠期間がありんすが、それ以降にまた魔力を吸わせてくださいまし? お分けいたしんすよ」
腰羽のドライアドさんが嬉しそうに微笑みながらそう言ってくれたので、ウィルに視線を向けると仕方なさそうに笑って頷いてくれた。
「おぉぉ、ちぢんだぞ。オレ、チビになっちまった……」
ダンはノリノリで祭壇に乗ったくせに、縮んだことにへこんでいた。どうやら果物が出来るということへの興奮で、その他に全く気付いていなかったらしい。
「つぎはボクのばんです!」
フォンがちょっと緊張気味に祭壇に乗ると、他の人より小さなドライアドさんが、マントのように広がったツタをズルズルと引きずりながら近付いてきた。
「ん? 今回は果実だけだえ。主は野菜であろうが」
族長さんにそう言われると小さなドライアドさんが、これまた小さな声で震えながらに何かを訴えていた。
「確かにお主の実は甘いがなぁ。身体に見合わず大きな実を作ろうとするから失敗するのだえ? 自身の成長を待ちなえ」
族長さんにそう言われてしょんぼりと肩を落として立ち去ろうとしていた小さなドライアドさんの蔦を見て、ふと脳裏に浮かび上がった物がある。もしかして――――?
「あのっ、そのドライアドさんの実って、もしかして深い緑色で大きくて、中は赤かったり?」
「うむ、そうだえ。まだまだ幼いゆえ、大きな実を作ろうとして失敗続きなのだえ。それで、自分もやりたいとな」
「あの、私、その子の作る実――スイカが大好きなんです。駄目ですか?」
果実が良いと指定したのはウィルなので、私たちが良いなら全く構わないと言ってもらえた。ウィルはウィルでなんで果実指定なのかと思ったら、私が果物が好きだからというだけだった。
「んふふふふ。愛ゆえの暴走かえ?」
「チッ。黙れ」
「んはははは! これは小気味よい!」
族長さんが楽しそうに笑いながら、立ち去ろうとしていた小さなドライアドさんを手招きで呼び寄せ、存分に実らせておいでと頭を撫でていた。
小さなドライアドさんが物凄く嬉しそうに飛び上がって喜ぶものだから、あまりにも微笑ましくて私たちだけでなく、ウィルさえもほんのりと笑顔になっていた。