58:何を食べよう?
町長さんと奥さんに挨拶して、おすすめされたお店に向かう。
「うわぁ、メニューがいっぱい!」
店員さんにメニュー表を渡され、ぱらりと開いて見たら、二〇ページくらいにさまざまな料理の絵と説明が書かれていた。
「エビチリあるじゃない! エビチリは絶対に食べるでしょ――――」
酢豚と麻婆豆腐も外せない。
スープはやっぱり、コーンと卵のスープよね。とろっとしてて優しい味のやつ。ここのもきっとそれ。それに辛くないからフォン・ダン・ショコラたちも安心して飲める。
「すぶたってなーに?」
「豚肉や具材を軽く揚げたあとに、お酢やお醤油なんかの特性のタレと絡めて、とろみを付けたものよ」
「すっぱい?」
「ちょっとすっぱいけど、美味しいわよ。ご飯が進むのよね」
チャーハンと組み合わせる人も多いけど、私は白ご飯派閥。そしてついつい食べすぎちゃう。
初めは酸っぱさを気にして顔を曇らせていたショコラだったけど、私の説明を聞くうちに食べたくなったらしく、キラキラとした笑顔で見下ろしてくる。
見下ろされるのって、結構に違和感があるのね。
「……エビチリ、酢豚、麻婆豆腐とスープを五人前ずつ」
「えっ、そんなに入らないわよ?」
「俺が食べる」
あっ、そうか。ウィルは余裕で食べられるんだった。そして、余ったらストレージに入れおけるしね。どうぞどうぞ注文してくださいと、両手で合図した。
「麻婆豆腐は辛めと普通、甘口があるけど、どうしますかい?」
「一人前は辛口で! あっ……」
ついつい前のめりで答えてしまって、皆のきょとんとした顔を見て我に返った。いやね、辛いの食べたかったのよ。
もう一人前は普通、残りの三人前は念のため甘口で頼むことにした。フォン・ダン・ショコラたちは間違いなく甘口だろうし。
「かしこまりました、まいどありー」
明るく恰幅のいいドワーフの女将さんが、厨房にいる旦那さんにメニューを伝えると、従業員さんたちが慌ただしく動き出した。
いきなり大量注文してごめんなさいね、急がなくて良いですよと伝えると、女将さんがニカッと笑った。
「なぁに、魔族はみーんな大食いさね! 気にしなさんな!」
「ドワーフさんたちもですか?」
「ああそうだよ。しかもねぇ、ビールなんて樽ごと飲むし、酒精の強い酒も水みたいに飲むからね。あんたらは可愛い方だよ!」
「さけって、うまいのか?」
ダンが不思議そうに聞いてきたけど、なんとも答えづらい。好き嫌いはもちろんあるし、体質で飲めない人もいる。個人的にはアルコール度数が低めのものを嗜む程度。ウィルもそんなに飲まないらしいのと、魔力でアルコールを分解してしまうらしくて、あまり酔えないのだとか。
聞いた当初、なにその便利なのか不便なのか分からない機能は……と言いたかったけど、ぐっと我慢したのをふと思い出した。