56:魔力を消費しろ。
馬車に乗り込みパスコビルを出発。
馭者さんにここから近くで、食材の買い物ができそうな町などはあるかと聞くと、ソンゴウシャンという山岳地にある村がおすすめだと言われた。馭者さんいわく、辛いものがいっぱいあって、辛党の聖地なのだとか。魔界なのに聖地。妙な対比はいいとして、辛いものかぁ。
めちゃくちゃ気になるじゃない!?
「ぜひそこに立ち寄りましょう!」
「「はーい」」
「ん」
山岳地帯に近づくにつれ、馬車がガタガタと揺れ始めた。ちょっとお尻が痛いかも、と思った瞬間に馬車の揺れがかなり緩和された。なんでだろうと不思議に思っていると、ウィルにお尻を指差されて、いつの間にかフカフカのクッションに座っていたことに気がついた。
「魔法で衝撃吸収もつけてあるから、もう痛まないはずだ」
「あー、うん。ありがとうね」
全く気づかなかったので本気で驚いたのに、ウィルはそれがどうしたといった、いつものスンとした感じだった。
フォン・ダン・ショコラたちが自分にもとウィルに訴えていたけど、却下されていた。自分で出せ、余剰魔力を消費しろとのことだった。
消費したら戻るの? それならウィルが奪えばいいんじゃないの? と聞くと、その場合、フォン・ダン・ショコラたち入って変質した大量の魔力がウィルに戻るので、今度はウィルの姿に影響が出るかも? とのことだった。
「ウィルに影響ねぇ……ケモミミ生えるとか!?」
「…………なぜそんなに目を煌めかせてこっちを見る」
「いんえぇぇ、べつにぃー」
煩悩がダダ漏れしすぎたせいでジトッとした目で睨み返されてしまった。ここは素早く撤退が正解。
そんなことよりも、だんだんと道が険しくなっていて、このままのスピードでの高速移動は大丈夫なのかとかの心配がある。
「んきゃっ!」
「あれっ?」
「いでぇぇぇ!」
フォン・ダン・ショコラたちは、三者三様でクッションを出しては変な声を漏らしていた。反発が強すぎてトランポリンみたいになっていたり、薄っぺらくてそんなに柔らかさがなかったり、なぜかカチカチだったり。
「ふはっ。下手くそだな」
「ぐぬぬぬ」
「むーっ」
ダンとショコラはいじけて頬を膨らませていた。青年の姿でやると可愛さよりもちょっと面白さが出ているなと、二人を見て吹き出してしまった。
フォンは、流石の真面目かつ二人のお兄ちゃんだ、ウィルに出し方を教えてほしいとお願いしていた。
「もうソンゴウシャンに着くから、また後でな」
「うん」
ウィルが頷くフォンの頭を撫でようとして、ピタリと止まった。そして、手をスッと引いていた。
その気持ち、すっごく分かる。言動が子どもなのに、見た目は物凄くイケメンな青年なのだ。頭よしよしってなんか違うくないっ? となってしまうのだ。
だけど、そこで手を引くのはまだまだだようぃるふれっどくぅん。フォンがちょっと淋しそうにしているじゃないの。
くすくすと笑いながら、ウィルの代わりにフォンの頭を撫でてあげた。





