53:とりあえず、生春巻きを食べよう
引き剥がされてしょんぼりと床に座り込むショコラの頭を撫でていたら、ダンがお腹が減ったと騒ぎ出した。
「まず先に言うことがあるだろう?」
ウィルの怒りを含んだ低ーい声に、フォン・ダン・ショコラたちがびくぅぅぅっと軽く飛び上がり、尻尾の毛を逆立てていた。
誰からともなく床に正座し、耳を垂らしてしょんぼりとしている。
「「ごめんなさい」」
「ん。流石に肝を冷やした」
「まおー、ありがとな」
「ん。弱いものを守ろうとするのは大切だが、お前たちもまだまだ弱いものだ。忘れるな」
「「はい」」
しょんぼりが更にしょんぼりしている。ただ、いい大人な見た目のせいで、眼福…………じゃない、違和感が拭えない。
声も結構低くなってるのに、舌っ足らずな感じのままなのよね。
とりあえず目覚めてよかったよかった。
「んじゃ、ご飯にしようか?」
「おう! はらへった!」
素早く気持ちを切り替えて立ち上がったダンが、ウィルにしこたまアイアンクローされていたけど、流石に自業自得かな。
ダイニングに移動して、生春巻きとソース類を持ってきてもらう。そういえばスープ作り忘れてたなと思ったら、料理長さんがタマネギと溶き卵の中華風のスープを作ってくれていた。めちゃくちゃありがたい。
「生春巻きはね、素手で持って、ソースをたっぷり付けて、バクッと食べる! これだけ」
ソースは色んな種類があるから、好みを探してねと言いつつ、私はスイートチリソースに追い唐辛子をした。
大きな口を開けて、はむっ。
食べてすぐは、スイートチリソースの甘みと酸味が口に広がる。次に、舌触りのいい生春巻きの生地と、シャキシャキのレタス、プリプリの海老が口の中で混ざり合い、至福の瞬間が訪れる。
あぁ、生春巻きだ。美味しいなぁ。
食べたことのある私は、そんな感想が出てくるのだけれど、初めて食べたであろうウィルやフォン・ダン・ショコラたちは、両手に生春巻きを掴んで、黙々と食べていた。
引くほど作ったから、余るかなぁなんて思っていたけれど、この勢いだと全部なくなってしまうかもしれない。
帰る前にライスペーパーを少し買って帰ろうと思っていたけど、これは業者レベルでの輸入も考えたほうがいいのかもしれないな……なんて想像して、ちょっとだけ身震いした。
だって、ウィルたちの消費量からして、一人で包むの絶対に大変そうなんだもん。
帰ったら、フォン・ダン・ショコラたちに覚えてもらおうかなぁ。子どもって、包むの好きよね。餃子とかも楽しそうに包んでくれてるし。
流石に売り物には出来そうにもない出来上がりだから、家用にしてるけど。





