【発売記念SS】前世のクレープが食べたくて……
反省はしている。
とりあえず、反省はしていると言っておけば、なんか丸く収まるとは思っている。
自重? そんなものでお腹が満たされるのか、と言いたい。言ったけど。言ったら、ウィルの目が据わったけど。
「ふうん?」
「だから、まぁ、一応反省はしているのよ」
事の発端は、魔国内で時々見かける屋台で売られているお菓子だった――――。
ウィルが休日出勤でいなくて、暇だからとフォン・ダン・ショコラたちとお出かけしていた。
家から少し離れた通りある屋台で、薄っぺらくて薄ら甘いホットケーキとクレープの間みたいなものが、クレープとして売られていた。前世と見た目は一緒なのに、中身はクリームを塗っただけのもの。具材はなし。
フォン・ダン・ショコラたちはお気に入りで、よく買いに来ているのだとか。
――――もったいない。
食べてみると、生地の味も舌触りも良かった。でも、なんだか物足りない。
だから、ついつい店員のリス獣人さんに声をかけてしまった。
「ねぇ、利益は出てる?」
「え……」
いや、フォン・ダン・ショコラは気に入ってるっぽかったけど、どう見ても閑古鳥なのだ。私もお店あるなーとは思っていたものの、食べたことなかったし。
閑古鳥なのは、店構えの華やかさが特にないことも理由としてありそうだけど、クレープの見た目や味の質素さも大きな要因な気がする。
色々と誤魔化して説明をしつつ、クレープをもっと薄くして果物や様々のソースを入れてはどうかと話した。
前世であったような苺チョコとか、プリンとか、ブルベリークリームチーズとかとかとか、絶対に美味しいから売って欲しい。
「え……」
「あ、ごめんなさいね。私、あっちの通りで定食屋を――――」
「知ってます! 魔王様の番さんですよね!?」
え、そういう認識のされ方なの? てか、番? えぇぇぇ? と首を傾げていると、犯人はフォン・ダン・ショコラだった。それなら仕方ないのかな? うぅん?
「それなら話が早い! たぶん! ちょっと待っててね!」
バタバタと家に帰って、果物やソース類をバッグに詰め込む。オレンジやキウィもありよね。
パンパンになったバッグを抱えてクレープ屋さんに戻った。
「生地と鉄板、ちょっと借りていい?」
「は、はい」
リスの獣人さん――フローラちゃんに許可を得つつ、生地に少しだけ牛乳を足して伸ばす。鉄板に薄く塗り広げ両面を焼いたら鉄板から取り出す。
四分の一程度にクリームを塗り、その上に薄切りにした苺を並べチョコソースをササッとかけて、半分に折りたたんだあと、円錐形にくるくると丸めていく。
「出来た! 食べてみて!」
「えっ、あっ、はい………………っ、美味しいです!」
「ねっねっ!?」
初めは疑心暗鬼な様子のフローラちゃんだったけど、一口食べたら茶色のふわふわした尻尾をブンブンと揺らしていた。黒っぽい瞳はキラキラと輝いて見える。これは間違いなく、本当に美味しいと思ってくれている反応だろう。
他にもこんな具材を入れたりも出来るんだよ! なんて、マシンガントークをしていたら、それを聞いていた通りがかりの人たちがぽつぽつと集まりはじめて、数人がそこまで言うのなら食べてみたいと言い出した。
「え……」
「具材まだあるし、作って売ってみましょうよ!」
食べたいと言う人がいるのなら、食べさせてあげたい。お金はもらうけど。
そして、こういうときにチャンスをしっかりつかんでおくと、次に繋がるって知ってるから、いまが売り上げ伸ばすチャンスだよとフローラちゃんに耳打ちした。
「っ……やります!」
そうして気付いたら、クレープ屋さんに行列が出来ていた。フォン・ダン・ショコラたちに果物やクリームなどの材料を買いに行ってもらったりしている内に夕方になっていて、仕事から戻ったウィルが私たちを探して転移してきて、色々バレた。
「また魔族をオトしてるのか」
「人聞きの悪い!」
ただ美味しいものを食べたい、美味しいものを提供したい、なんならちょっと儲けたいだけだ。
「反論か? この状況で?」
屋台の人だかりが気になった魔族の人たちが更に人だかりを作って、ちょっとした混乱になっている状況を指差され、ぐぅの音も出なかった。
まぁ、反省はしているわよ。気持ち。ほんのちょっとだけね。
その後、クレープ屋さんは毎日大盛況で、店員さんも雇えるくらいの収益を上げられているようだった。
そしてなぜかクレープ屋さんの看板には、ルヴィ食堂監修の文字がしれっと書かれていた。
私的には、美味しいものが食べられるようになって幸せだから、オールオッケーだ。
―― SSおわり☆ ――





