46:生春巻きの準備
厨房で料理長に聞くと、まさかのありました! ライスペーパー! ただストックはないらしいので、メイドさんが買いに出かけてくれた。
「わりと買い出しに出かけてるけど、あるって気付かなかったわ」
「あぁ。人間界でも一部しか売ってないようですよ」
――――ん?
よくよく聞いてみると、人間界の東の方にある国の特産物で、ここは港町だからこその利点で船便で輸入している店があるのだとか。
なにそれ、羨ましい。魔国でも売ってほしい。
買ってきてもらうまでの間に、準備を進めよう。
まずは、スイートチリソースのベース作りから。
スイートチリソースって作れるの!? って思って前世で作ったら、手作りのほうがめちゃくちゃ美味しくて、何回も作ってたから、分量は完璧に覚えている。ってことで、一番最初にやることは、お鍋に酢を入れてそこに鷹の爪を浸してふやかすこと。ヘタを取って、種ごと漬け込んだほうがピリ辛で美味しいから、私は種は抜かない派。
漬け込みに三〇分ほど要するので、その間に具材の準備。
レタスをめちゃくちゃちぎりまくる。とにかく沢山ちぎる。そしてしっかりと握り潰す! これ大切な工程なのよね。レタスってうねうねしてるから、間に空気が入りやすい。それを阻止するためのニギニギなのだ。
人参の細切りも忘れてはいけない。歯ごたえ要因としてかなりいい仕事をしてくれるから。
そして何より大切な具材は、海老。海老がないと、生春巻きとしては認められない。いや、いいんだけど、個人的に海老は絶対に入れたい。
海老は串で背わたを取ってボイルしておく。
「あっ。ウィルのストレージに蟹……か……カルキノス?がまだあった気がするんで、脚一本出せって言ってきてもらえます?」
興味深そうにこちらを見ていたキッチンメイドさんにお願いしたら、全力で首を振られた。ちらりと料理長を見たけど、やっぱり首を振られた。
後で取りに行くかな。
生春巻きで次に大切なのは、大葉。水菜とかもあると、味変としてなかなかいい仕事をしてくれる。
あとはクリームチーズや生ハムもかなりいい仕事をしてくれるので、沢山出してもらった。
鶏のササミは茹でて細くなるよう解し、モモ身は一口より小さめに切って照り焼きにしておく。
あるていど具材の準備を終わらせたら、スイートチリソース作りに戻る。
鷹の爪をお鍋から取り出し、みじん切りにして酢の中へ戻す。そこにちょいと多めの砂糖と塩少々、すりおろしたニンニクを入れて、強めの火にかける。ぶわりと泡立つので吹きこぼしに注意が必要だ。少しだけ灰汁が出るので気持ち取っておく。
少しとろみが付いたら火を止めてオッケー。冷めるととろみが強くなるので、要注意。
「さて。ソースの半分はマヨと混ぜます!」
「味見しても?」
「どーぞ!」
料理長はスイートチリソースはもうちょっと辛めでも好きらしい。私もだ。ピリ辛よりビリッと辛いくらいが好きだけど、ウィルがなぁ。あまり辛いの得意じゃなさそうだから。秘密らしいけど。
さて、そんなおこちゃま舌のウィルから蟹の脚をもらってこようっと。