42:ダンが……。
「んっ、タコのカルパッチョ美味しい!」
「……そうだな」
海産物たっぷりのランチ。美味しいんだけど、ちょっとだけ気まずい空気にしてしまった。聞かなくても良かったんだけど、アレハンドロさんに会ったあとから、ウィルがなんとなく機嫌が悪そうだったから、早めに吐き出させておきたかったというのもあった。
さっきから、ちょっと淋しそうな表情のウィルが気になる。
「どうしたの?」
「いや…………」
タコの身をフォークで刺した状態で、ボーッとしているウィルの顔を覗き込むように見ると、ハッとして直ぐに真顔に戻られてしまった。
もう一度、どうしたのかと聞くと、気まずそうな顔で、ボソリと反省していたと言われた。
「反省?」
「……好きな女と食事しているのに、友人の悪口は最低だったなと」
――――友人。
あぁ、そうか。ウィルはアレハンドロさんを本当には嫌えてないから、こんなにも苦しそうなんだ。
「ウィルは可愛いね」
「……それは褒めているのか?」
「褒めてるよ。いまね、すっごく愛しさが溢れてるのよ」
「…………ふん」
そっぽを向いたウィルの耳はありえないほど赤くなっていて、また可愛いと言ったら今度はちょっと怒られてしまった。
煽るなと言われても、可愛いものは可愛いんだから言いたくなるのよね。
午後も港町を散策したり、海を眺めたりしていた。
日が陰り出してそろそろ帰ろうかと屋敷に向かって歩いていたら、馬に乗ったアレハンドロさんがすごいスピードで駆け寄ってきた。
「魔王陛下! 転移で直ぐに屋敷にお戻りください」
「何があった」
「ダンが池で大ケガをしました」
アレハンドロさんがそう言った瞬間、ウィルが私の腰を抱き寄せて屋敷に転移していた。
「ダンはどこだ!」
屋敷に戻るなり、ウィルが出迎えに走ってきた執事さんに聞いていた。こんなに焦るウィルを見るのは初めてかもしれない。
執事さんに三人の部屋にいると言われて慌てて向かうと、ベッドには真っ青な顔をして蹲って眠るダンがいた。お義父さんがそんなダンの頭を優しく撫でてくれている。
そして、その横には心配そうなフォンと、泣いているショコラ。
想像していたよりも大きな怪我のようだった。お義父さんが「骨折だよ、命に別状はないよ」とは言うものの、顔色が悪すぎてさすがに心配だ。
「どこが折れた」
「両腕とたぶん肋骨あたりもだろうね。応急処置はしているが……」
「何があったか説明しろ」
「おっきなワシが、ようせいさんたちを、たべようとしていたの。ダメっていったけど、ショコラが……」
「…………ごべんなざぃっ」
ゆっくり聞き取っていると、フレースヴェルグとかいう大鷲が襲ってきて、妖精さんたちを守ろうとして、ダンが大鷲に咬み付かれて吹き飛ばされたというのは分かった。
大鷲がどんなのかは分からないけども、たぶんなんか強い魔獣なんだろうな、というのは伝わった。
「チッ…………自分たちが勝てる相手かくらいは見極めろ!」
「「っ、ごめんなさい」」
ウィルが二人を怒鳴りつけ、ため息を吐きながらダンの腕に手を当てた。
――――何するんだろ?