41:一〇〇年前の出来事
子どもの話はまたいつかということで横に置いた。
港町での買い出しを終え、お腹が減ってきたので海を眺めることが出来るテラスのあるレストランに入った。
昼食を待つ間の話題として、アレハンドロさんのことを聞いてみることにしたのだが、ジロリと睨まれてしまった。
一〇〇年前にクビにしたってきいたけど、未だにこんなに怒っているなんて、何があったんだろう。
「……アイツの考えていることが分からない」
ウィルがぽつりぽつりと漏らした内容によると、アレハンドロさんには元々奥さんがいたようだった。魔力も多く、戦闘能力も高いアレハンドロさんは、近衛騎士としての仕事以外にもウィルの右腕のようなこともしてくれていたらしい。
ある日、アレハンドロさんの奥さんが重い病に倒れたそう。看病のために長期休暇を取れと言ってもアレハンドロさんは首を縦に振らなかったのだとか。
ちなみに、魔法で病を治すことはできない。ケガは治せるのにだ。
以前ウィルとケンカしたときに頬に怪我をさせてしまった。そのとき、ウィルは何でもないようにスッと治していたけれど、実は莫大な魔力を消費していたらしい。
治癒魔法を使うのは大変なんだとか、ヒヨルドが熱弁を振るっていたっけな。
「なんでなの?」
「職務を全うすると誓っているから、としか言わなかった」
奥さんの病状がどんどんと悪化していると聞き、ウィルはアレハンドロさんにまた休むように言ったらしい。だけど頑として首を振らなかったのだと。だから、ウィルはアレハンドロさんをクビにしたらしい。
「えぇ?」
「クビにすれば、さすがに休むだろうと思っていた」
どうやらアレハンドロさんは、直ぐにお義父さんのところに行き、お義父さんに雇ってもらっていたそう。
そして、任務で留守にしている間に、奥さんは息を引き取ったのだとか。
「葬式であいつは涙一粒さえ流さなかった……しかも、数年後には、女をとっかえひっかえだ」
奥さんとも顔見知りだったウィルは、奥さんを蔑ろにしていたことが、とても許せなかったのだとか。アレハンドロさんはまるで奥さんの死を望んでいたんじゃないかとも思っているらしい。
あのアレハンドロさんがそんなことをする人なのだろうか?
魔国内を警らするアレハンドロさんを思い出す。どんな魔族にも誠実に対応し、時々厳しく怒鳴るけどそこには愛があるって分かるから、みんな笑顔で返事している。
「そのことについて、話したりした?」
「アレハンドロとか?」
ウィルの表情は、なんでそんな無駄なことをとでも考えていそうなものだった。
今度、アレハンドロさん掴まえて聞いてみようかな。