38:妖精さんの重さ
しばらくの間、睡蓮や妖精さんたちを眺めて、ぽつぽつとおしゃべり。
フォン・ダン・ショコラたちは、楽しそうに妖精さんたちの観察をしていた。三人とも気付いていないけれど、ショコラの頭の上には、一匹の妖精さんが眠っている。
「重さとかあんまりないのかなぁ?」
「どうなんだろうな」
ウィルいわく、捕まえようとする者はほぼいないし、そうそう捕まりもしないから、分からないということだった。
元の世界での蝶という立ち位置なら、収集家とかいそうだけど。ただ、この世界では妖精さんたちの姿的に、物凄く倫理が問われそうな気がする。
「腹減ったな」
「もう?」
そう聞いたものの、気付けば日は随分と傾き、空は薄紫とオレンジのグラデーションに染まっていた。いつの間にこんなに時間が経っていたんだろうか。
「フォン・ダン・ショコラー、そろそろ帰るわよー」
「「えーっ」」
三人とも、ちょっとしょんぼり。そういう姿もかわいい。ただ、家の魔王様のお腹がね、ペコペコらしいのよ。ストレージにへそくり飯があるでしょうとは思うけど。
「あしたもきていい?」
明日は朝市以外に周辺のお店を巡って産地のものを買い込みたかったけど、どこかで時間を作ろうかなぁと考えていた。
「お前たちだけで来ればいい」
「えっ、大丈夫!?」
「ここにいるくらいの魔物ならコイツらの方が強い」
強いと言われましても、フォン・ダン・ショコラたちこんなにもクリクリでモフモフでピルピルなのに? 可愛さは分かるけど、強さは一切見えない。
「ケルベロスだからな。もう一〇〇年経てばゴツくなるんじゃないか?」
「……ゴツ」
三人に頼むから、ゴツくはならないでくれと頼み込んだものの、ショコラは「ごつくなるー! つよいしょこらになるの!」とノリノリだった。ショコラはなんとなく大丈夫だからそっと放置。問題はフォンとダンだ。
「二人とも、筋トレとかほどほどにヒヨルドとかを目指しなね? あ、見た目だけね? 女誑しとかにはならないでいいから」
「必死だな。そしてヒヨルドの評価がボロクソだな」
「必死だよ! ヒヨルドは好きだけど、ちょっと子どもに見習わせるには無理がありまして……」
モゴモゴと言い訳をしていたら、ウィルがフハッと声をあげて笑っていた。
「そろそろ帰るが、ソレはどうするんだ?」
「「それ?」」
フォン・ダン・ショコラたちは、ショコラの頭の上に寝ている妖精さんに気付いていなかったらしい。やはり重さはないのかもしれない。





