37:すっごいファンタジー
睡蓮の池で、緑の妖精さんを眺めていたら、フォン・ダン・ショコラに向かって、妖精さんが飛んできた。三人の尻尾がフリフリと揺れていたので、襲わないでよ? と、つい言ってしまった。
「るゔぃちゃん、ひどぉい!」
「えっ、いや、だって……」
ショコラが頬をぷくーっと膨らませて怒ってしまった。怒っているのにかわいいな。
興奮して飛びつきそうに見えちゃったんだよごめんごめんと謝っていたら、飛びつきたいのは我慢していると言われ、『我慢してるんかーい!』とツッコミそうになった。
「妖精さんって人懐っこいの?」
「いや。大人しい動物とかには近付いて、背中とかで寝ていたりはするが」
「お布団扱いなのね」
「あぁ」
そんな話をウィルとしていると、妖精さんたちがフォン・ダン・ショコラの周りをクルクルと飛び、頭の上に乗ってみたり、肩に乗ってみたりしては、なんだか違うなという感じで首を傾げていた。
フォン・ダン・ショコラは、興奮を我慢してプルプルと震えつつ、妖精さんたちを目で追っていた。
しばらくすると、妖精さんたちはフォン・ダン・ショコラの上で寝るのを諦めたのか、睡蓮の咲き乱れる池の方へと飛んで行った。
「あ、いっちゃった」
「ちぇっ」
三人に池にもう少し近づきたいと言われたので、そっと近付いてみることにした。
あまり匂いは強くないものの、ふわりとした甘さのある瑞々しい香りがする。睡蓮ってこんな匂いなんだなぁと感心しつつ見ていたら、何個かの睡蓮の中に妖精さんが気持ちよさそうに眠っていた。
「うわっ。すっごいファンタジー世界」
「ファンタジー世界とはなんだ?」
説明しようとしたものの、そもそもこの世界が私にとっては完全にファンタジー世界なのだ。そして、ウィルたちにとっては当たり前の世界。
この感覚って伝わりづらそうだなと思いつつも、どうにかこうにか説明してみた。
簡単に言うと、空想の中の世界ということでいいんだと思う。そして、そう感じるときというのは、非日常を目の当たりにしたときとかでもある。
基本的にはポジティブな意味合いが強く、凄惨な事件などの非日常的なやつには使わない。
私は、心躍るようなときめきを感じたときに使いがちだ。
「例えば、ウィルが私の元の世界の話を聞いたとき、この世界にはないものや考え方に対して、まるで空想世界の物語だなと思ったりするでしょ?」
「ああ、それがファンタジーということか」
どうやら理解してもらえたらしい。最近、私の説明能力が上達している気がするけれど、ただ単にウィルの察しが良すぎるせいな気もしている。
これは気にしたら負け案件だな。





