36:睡蓮のある池
昼食後、いろいろとあったもののしっかりと休憩し、予定していた睡蓮を見に行くことにした。
お屋敷を出て一五分ほど歩くと、少し鬱蒼とした森のような場所に到着した。
大型の動物が走っている音やウェギャギャとか鳴く謎の鳥の声が聞こえるが、気にしなくていいらしい。なぜによ? と思っていたら、ウィルが森に足を踏み入れた瞬間から、音が止んでいだ。
ウィルいわく、この森にいる魔獣たちは比較的大人しく臆病なので、力量の差がありすぎる相手が来ると身を隠すのだとか。
「力量の差を測れるほどの知能なの?」
「いや。野生の勘とかなんだろうな」
いやにふわっとした理由だったのは、ウィルが強すぎてそもそも動物が近寄って来ないから。たしかに、ウィルが小動物と触れ合っているイメージはない。フォン・ダン・ショコラに関しては、なんか別枠だと思うからスルーしておこう。
「もう着くぞ」
鬱蒼とした森はすぐに終わりを告げた。木々の向こう側からキラキラと光が漏れ出て来ているなと思っていたけれど、森を抜けた瞬間の色彩の暴力が半端なかった。
池の澄んだ水面が太陽光を反射し、ブルーダイヤのように輝いていた。そして、そんな池に様々な色の睡蓮が咲き乱れていて、巨大な一枚の絵画を見ているかのような錯覚に陥った。
「すごい……」
圧巻というか、荘厳というか。池や睡蓮に近付いて見るより、遠くから全体を眺めたいと思える風景だった。いつもなら、わーっと駆け出すであろうフォン・ダン・ショコラでさえ、静かに風景を楽しんでいた。
「きれぇだね、るゔぃちゃん」
ショコラがそっと寄り添ってきて、スカートの裾をきゅっと握りしめてきた。そっと頭を撫でると、嬉しそうに耳をピルピルと動かしていた。
「あそこ、蝶が飛んでるわよ」
「妖精だな」
「蝶でしょ……え?」
緑色の羽が少し透き通った、大きいアゲハチョウくらいの大きさだったんだけど……え? あれっ?
そっとそぉっと近付いたら、本当に妖精だった。妖精としか言いようのない見た目の手のひらサイズの妖精さん。
「おしゃべりとか出来る感じ?」
「いや。会話は無理だな。魔獣と大差ない知能だ」
その例えは分かりづらいよ、うぃるふれっどくん……。
フォン・ダン・ショコラたちくらいはあるのか、それとももっと動物的な感じなのか。
「んあー…………昆虫くらい?」
「……ってことは、蝶という認識でいいのね」
見た目は、耳が尖っていて人型で羽があるって感じなので意思疎通が取れそうにみえるけど、ただ綺麗な水場や花のある場所で飛んでいるだけなのだそう。
――――蝶だな。





