32:色気より、花より、食い気。
セイレーンたちの朝の狩りも終わったようだし、もういいよねということで、やっとお義父さんのお屋敷に戻れた。
「やぁ、おかえり」
セイレーンは見れたかい? と、お義父さんが膝を少し落としてフォン・ダン・ショコラたちから話を聞いていた。ウィルは相当お腹が減っていたのか、ダイニングに行ってから話せとばかりにお義父さんの首根っこを掴んで引き摺っていた。
――――そっちを!?
いや確かに、フォン・ダン・ショコラの三人を引き摺るよりは、お義父さんの方が早いけどもよ。
お義父さんは、楽しそうに声を上げて笑っていたからよかった。よかったのか? という疑問はちょっと湧きかけたけど、頭の中からササッと消し去った。
朝食を終え、リビングスペースでお喋りしつつ午後からの予定を話し合い。
お義父さんいわく、すぐ近くに睡蓮が沢山咲く池があるのだそう。丁度いまが開花時期のため、色とりどりで綺麗なのだと教えてくれた。
「色とりどり、ですか? ピンクだけじゃなく?」
「あぁ、紫や黄色や白なんかもあるよ」
他にもいろんな色や柄があるから、見ていて楽しいよとのことだった。
「睡蓮かぁ…………蓮根……は、蓮だもんなぁ。蓮根食べたいなぁ」
「れんこん?」
「根菜だけどない?」
「聞いたことないな」
ちえっ。まぁ、ないものは仕方ない。魔国に戻ったら八百屋さんに近いものがないか聞いてみよっと。
脳内計画表に帰ってからやることリストを付け足していたら、ウィルがクスリと笑った。
「なに?」
「お前は、いつも食い気だなと思ってな」
「失礼な! 当たり前じゃないの!」
「どう失礼なんだよ……」
ウィルが仕方なさそうに笑う表情が、お義父さん的には珍しかったらしく、少し驚いた顔をしていた。
「ウィルフレッド、本当にいいパートナーを見つけたね」
「まあな」
少しドヤ顔で返事するウィルは、ちょいと可愛らしかったので、頭を撫でておいた。フォン・ダン・ショコラたちと同じ扱いをするなと怒られたけども。
「さて。そろそろお昼の準備に行ってくるわね」
「しょこら、てつだう!」
フォンとダンも手伝ってくれるらしいので、それならとお願いした。
まさかウィルとお義父さんもついてくるとは思わなかったけど。
物凄い笑顔で「からあげ、作るんだよね!?」という圧力が凄い。ウィルたちは、からあげはいつも食べてるから、今日はいつものと他に、アレンジもしようかなぁ。





