29:魔王という役職
統治方針と距離が近い魔王について説明を求めると、ウィルが右手中指にはめている指輪をスポッと取った。
「魔界内で一番強い者が魔王になる。この指輪の力もあるだろうがな」
魔王になりたてのころは、指輪を狙う魔族に襲われることもあったという。そのたびに、なぜ魔王になりたいのかと聞いていたらしい。
「ちなみに、答えは?」
「魔族の頂点に立てば尊敬されるだの、好きな女を手にできるだの、贅沢三昧だの、世界征服だの……アホしかいなかったな」
――――おっふぅ。
なんのフォローも出来ない理由だった。
「で、それを達成した後、魔界をどうするのかと聞いても、ポカンとした顔をする。魔王なんだから部下が勝手に切り盛りするとでも思っているんだろうな」
そういう相手は、力でねじ伏せた方が早いので、指輪を渡すそう。
「……んえっ? 渡すの!?」
「あぁ。別に指輪があろうがなかろうが俺が勝つし」
規格外なんだよなぁ、ウィルって。それほどの魔力があっても、それが誇らしいとか思っていないみたいだし、魔力量より見るべき所があるとかも思っていそう。力こそ全てみたいな魔族としては、異例な気がする。
「シバき倒したあとは、ソイツらを部下にして魔王の仕事を見せて心を折るようにしていたら、徐々に噂が広まってな」
うぃるふれっどくん、それは二重どころか四重くらいに心を折ってるよ。と言いたいがグッと我慢した。
「どんな噂?」
「魔王は魔族の全てを把握している恐ろしい存在だ、機嫌を損ねたら種族ごと一瞬で消されるぞ、と」
ウィルが疲れ果てたようにソファの背もたれに体を預けて、大きな溜め息を吐き出した。
「ブフッ……っ、ごめ…………ぎゃ、逆効果過ぎて……面白すぎる! もしかして、それで距離の近い魔王になろうとしてたの!?」
「……うるさい」
そうだ、そうだよ。ウィルって魔王城関連とか兵士さんとかには、魔王だとバレた瞬間にビシッと敬礼されていたもんなぁ。
最近は定食屋に毎日のようにいるから、みんな慣れてるだけっぽいけど。
町にお出かけのときも、スルー半分、引き攣った笑み半分だしねぇ。もしかしたらスルーしてる人たちは、まだ若いのかもしれない。昔を知らないだけ、みたいな。
そう考えると、おじいちゃん色々と大変だったのねぇ、という気分になる。
またもやアイアンクローされたけど。
なんで考えてることがすぐバレるかなぁ。顔に書いてあるとか言うけど、ペインティング能力など持ち合わせていない。
「ウィルって、地味に苦労人よね。あと、魔族に向いてない」
「魔王だが?」
「あははっ。魔王っていう役職なだけって思ってるでしょ?」
「ん」
ソファにもたれ掛かったままのウィルに、ピッタリと寄り添って体を預けた。
「どうした?」
「いつまでも、そういうウィルでいてね。心優しい、私の魔王――――」
ゆっくりと重ねた唇は、なんだか甘く感じた。