25:もっとわがままを言え、と言われても
ウィルの幼いころの話や元の世界の話をしている間に、いつの間にか夕方になっていた。
「おや。フォン・ダン・ショコラが起きそうだよ」
フォンの顔がピクピクと動いて、あふーっと大きな欠伸をしていた。ショコラはまだすやすや、ダンはなにやか口をモゴモゴさせている。夢でなにか食べてるのかな。
「この子たち、一人だけ起きたときはどうしてるんだい?」
「フォンは二人が起きるのを大人しく待ってますね。時間になったら起こしてるみたいですけど」
ダンは吠えたり頭突きしたりして瞬時に起こしている。
ショコラはなんか頑張ってフォンとダンの毛繕いしたりしている。そんなに届かないから、頬か口周りを舐めてるけど。そしてダンに怒られてるけど。
「はははっ。可愛いねぇ」
フォン・ダン・ショコラが起きるまでもう少しかかりそうだから、今のうちに借りる部屋に荷物を置いて夜の準備をしたらどうかとお義父さんに提案された。
「ん」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「うん、ゆっくりでいいよ」
羊の執事さんに案内されたのは、二階の奥の方にある部屋だった。キングサイズのベッドがあり、ソファとローテーブルのくつろぎスペースや浴室など、かなり広い部屋だった。
「フォン・ダン・ショコラ様は隣の部屋ですが、お子様たちのみで大丈夫でしょうか? 見守りの侍女を付けることも出来ますが」
まさかの手厚い待遇と、侍女さんたちが当たり前にいる環境に、お義父さんって本当に元魔王なんだなと妙に感心してしまった。
とりあえず、侍女さんに同室内での見守りは必要ないと伝えた。
あの子たちはわりと自分たちで出来るのよね。お風呂も好きだし。ダン以外は。
「荷物はとりあえずここに出していいか?」
ローテーブルを指されたので頷きつつ、ありがとうとお礼を伝えた。
「もっと頼ってくれていいんだがな?」
「わりと頼ってるよ。今回も荷物や着替えを任せっぱなしだったし」
ウィルは私が甘え下手だと言う。かなり甘えてるつもりなんだけど、足りないのだとか。
以前、もっとわがままを言えと言われて、脚を差し出して「ふくらはぎがパンパンだからマッサージしなさいっ」と言ってみた。あれが私の中での一番のわがままだったのに、爆笑しながらそれは命令だろと言われてしまった。
笑いながらも、真面目にマッサージしてくれたけど。
「頼る、甘える、わがまま、なんか難しいのよねぇ」
「この旅行中のノルマにしようか。一日一回は必ず甘えろよ?」
「えーっ?」
気疲れしそうだと文句を言うと、令嬢のくせにと言われた。そりゃ元令嬢だけど、大元は一般市民なのよね。甘えたりわがままって言い慣れない。





