21:ピスピス、ダラダラ。
海に入ったあとなので体が塩水でカピカピするんだけど、そこは同伴者が魔力が有り余っている魔王ということで、全力で頼る。
体に清浄魔法とかいうのをかけてもらい、着替えまでもやってもらった。めちゃくちゃ楽ちんでありがたい。
お屋敷に戻る道中、ショコラが気にしていたデザート系のものを買ってから帰ることにした。
何百層にも重ねたパイ生地の断面のような見た目のもので、中にはいろんな味のクリームが入っているそう。チョコレートとベリー系とオレンジを買った。
「あっ! これって……」
丸いふわふわのスポンジのような生地に切れ目を入れ、そこにたっぷりのクリームを挟んだ、マリ……マリオリオ……違うな。マリ……なんだっけ?
「マリトッツォだな」
「マリトッツォ! そうそう! それ!」
めちゃくちゃ流行ってた記憶がある。初めて食べたときには、クリームの暴威に酔いしれたものだ。
おしゃれ系のマリトッツォとかも流行りだしたけど、ここのは前世で一番最初に流行ったとてもシンプルなスポンジとクリームのみのやつ。
結局、こういうのが一番美味しいのよね。
ジェラート屋さんもあって、そこでもいろんな種類を買い込んだので、ウィルのストレージに入れてもらった。
「「ただいまぁ」」
「戻りました」
執事さんに、お義父さんはリビングスペースで本を読んでいると聞き、挨拶に向かった。部屋はウィルと私、フォン・ダン・ショコラたちに分けていると言われた。いつの間にそんな指定をしていたんだと思ったが、ウィルのことだ、しれっと執事さんにでも伝えているのだろう。
お義父さんと一緒に買ってきたおやつを食べて、満腹になったところでフォン・ダン・ショコラたちがうつらうつらと船を漕ぎだした。
「ふふっ。やっぱり疲れてたのね」
「ん。寝かせてくる」
ウィルが三人を運ぶのが面倒だったのか、フォンの腕を取ってケルベロス型に戻した。そして首根っこを掴んで雑に運ぼうとしていたら、お義父さんがちょっと貸してくれと、指をワキワキさせながら両手を差し出してきた。
「咬まれても知らねぇぞ」
「えー、咬むのかい?」
なぜ『咬む』で満面の笑みなんだ。そういう趣味か?
お義父さんは嬉しそうにフォン・ダン・ショコラを受け取ると、ぎゅっと両腕で抱きしめていた。
お義父さんの腕の中で、ガンガンに涎を垂らして眠っているけど、お義父さんの服高そうなんだよなぁ。何かあったら魔法で何とかしてください。弁償は出来ません!
フォン・ダン・ショコラを抱きしめるお義父さんの顔は完全に父親で、きっとウィルの子育てもちゃんとやってきた人なんだろうなと思った。