19:魔王の気遣い
フォン・ダン・ショコラたちとひとしきり水かけして遊んだあとは、ぷかぷか浮かんでみたり、三人に泳ぎ方を教えたりしてみた。
流石犬系というかケルベロスなのか、異様なほど犬泳ぎが上手かった。
楽しそうに泳ぐフォン・ダン・ショコラたちを見ていて、なにか違和感があるんだよなぁと考えていた。
「あっ! あれだ。なんで時々耳や尻尾をピーンてしてるんだろ?」
三人とも同時にピーンとなっては、一瞬で戻るから見間違いかなとか、何か話してて興奮してるのかなとか、思っていたけど、バラバラに行動している瞬間でもピーンもしているのだ。
「あぁ、アイツらも気付いてんだろ」
「なにに?」
「ん? 近寄ってくる魔魚」
「…………」
なんか聞いてはいけない言葉が聞こえた。
魔魚が近付いて来ているというのは、命の危険を察知して、ピーンしているのでは?
「なんだよその顔は。俺がいるのに襲っては来ねぇよ」
「ほんとにぃ?」
「ほんとだよ、まおーさまがね、いかくしてくれてるのー」
ショコラが、でも一瞬びっくりしてしまってピーンしてしまうのだと言っていた。そもそも、それも五〇〇メートルくらい遠くで、こっちに来ようとしているヤツになんだとフォンが教えてくれた。
ウィルはそこら辺まで魔力の網みたいなのを伸ばして、それに触れたものを片っ端から威嚇しているらしい。
「私のために?」
「っ……あぁ、そうだ」
フォンとショコラにバラされて、ウィルはちょっと恥ずかしかったらしい。ウィルの気遣いが嬉しくて、スイーッと泳いでウィルに近寄り腕を絡めてくっつく。
「ふふっ」
「なんだ?」
「ありがとう」
「ん」
柔らかく微笑んだウィルがそっとキスをしてきた。
なんやかんやで、目的のキャッキャウフフが出来て満足だ。
そのあとも、フォン・ダン・ショコラたちと遊びつつ、クロールや平泳ぎなどして、魔法で海面に立つウィルに四人でブーイングしたりと、楽しく過ごした。
今はいっぱい動いて喉が渇いたし、お腹も減ってきたので、浜辺にある屋台で食べ物を物色中。
「クラーケンの串焼き二〇本下さい」
「あいよ!」
普通ってか、前世ではさ、お祭りの屋台とかでこんな注文したらギョッとされただろうなぁ。されどここは魔界。わりと当たり前らしい。
その他にもドラムだけのチキンバスケットとか、屋台の認識を崩される系の屋台が多くあって、どれにしようかと目移りが半端ない。
「オレ、これくいたい」
「ぽ……ポセイドン煮込み!?」
なんだその危険そうな名前は。ポセイドンって海の神様じゃなかったっけ?
いったいどんな料理なのかと焦って確認すれば、ただのアクアパッツァだったので、本気でホッとした。ネーミングセンスの方向性よ。
「刺激が強いが子どもも食える程度だろう」
「へぇ。辛いの?」
「ポセイドンと言う、海藻が入ってるからな」
ちょっと意味がわかりません。神様、海藻だったの? どゆこと!?