15:パスコビルよ……
ウィルが市場に出かけようと言い出したので、幼いころの話聞き出し作戦は後々遂行することにして、フォン・ダン・ショコラたちと向かうことにした。
「お昼はどうするんだい?」
「そのまま海に行くから、そこらで済ます」
「それなら、夕食は共にしないかい?」
「ん」
ほほう、それならお昼は海沿いのお店とかで海鮮料理がいいな、なんて軽くよだれを垂らしつつ妄想していたら、ウィルに腰を抱かれて行くぞと言われたせいで、現実に戻って来てしまった。
もう少しで大きな海老に噛り付くぞ! って瞬間だったのに。
「現実のものを食え」
「はーい」
海沿いの観光地パスコビルは、なんというか地中海のどこかの島の写真みたいな、白い壁と丸い青屋根みたいな建物が立ち並んだところだった。
そして、海が近い! 最高じゃないの、パスコビル!
エメラルドに輝く水面、そこから飛び出すブルーダイヤのような鱗の…………?
「何アレ?」
「リヴァイアサン」
「りば……」
「リヴァ、だ。リヴァイアサン」
違うのよ、発音の問題じゃないのよ。
海面から勢いよく飛び出して、虹をまといながらなんか氷魔法みたいなの吐き出してまた着水した、十メートルくらいありそうな竜みたいな生き物が普通にいるってどういうことよ、パスコビル。
観光地じゃなかったの、パスコビル。
「リヴァイアサンが飛ぶってことは、今日は晴れだな。パスコビルはこれがよく見れると有名なんだ」
どういう有名さなのよ、パスコビル。
てか、あれ級の魔魚?がわんさかいるってことよね、魔界の海って。
たしか、魔界に近い海沿いの人間の国は、あまり海に入らないって聞いた気がする。こういうことか。魔魚がいるから、入れないのか。
漁とかは出来てるんだろうか? 今度調べてみよう。
「てか、泳げなくない?」
「俺が誰だと思っている」
「…………魔王」
「ん。近寄ってこないし、近寄らせない」
――――なるほど。
太陽を背にフッと笑うウィルが、ちょっとだけかっこよかった。ちょっとだけ。その後ろで、もっとでっかいリヴァイアサンが飛び上がりやがったせいで。
「「でっかーい」」
「あれ、くえるのか?」
「食えるぞ」
――――やめれ。
「今日は漁をしに来たんじゃないの! 観光と買食いっ!」
「んははは。ん、行こう」
ウィルが子どものように笑いながら私の手を取り指を絡めて来た。こういうところは抜かりなくて、死ぬほどかっこいいんだから困ってしまう。





