13:その手のネタは何が何でも聞きたい派
ショコラの発言で、フォンとダンも気になったらしく、ウィルのお父さんに近寄っていき、スンスンと匂いを嗅いでいた。
「おやおや、あははは。なんだか懐かしいねぇ。ウィルフレッドが小さいころのようだ」
「記憶を捏造するな」
「えー? もぉ、酷いなぁ」
――――どっちなの!?
個人的に物凄く気になるんだけど。人懐っこ系のミニウィルと、ツンツンなミニウィル。どっちも美味しいけども! 実際はどうだったのよ!?
「おい……鼻息が荒いぞ」
「ちょ! デリカシー!」
確かにフハフハなってたけども。軽く妄想しちゃってたけども。乙女は鼻息なんて乱さないんだぞ! と言い張りたい。
ウィルのお父さんが、立ち話もなんだからサロンにおいでと誘ってくれた。
「「いくー」」
「おやつある?」
「ふふっ、あるよ。ジュースも持ってこさせようね」
「「わーい!」」
ウィルのお父さん、フォン・ダン・ショコラの扱いが上手いな。そしてフォン・ダン・ショコラたちがあんなに素早く懐くのも凄いと思う。
フォン・ダン・ショコラたちは人懐っこい印象だけど、実際はちゃんと人を見てるというか、なんか嫌いな臭いがする人とかとは距離を取りがちだ。
ふと、定食屋のお客さんにはまだいないのが幸いだけど、いつかの日のために対策は取らなきゃなと思った。これは心のノートにメモしておこう。
お屋敷内を案内されつつサロンに向かうと、大きな絵画がドーンと壁に飾られていた。金色のゆるふわウェーブで、少し切れ長の瞳の女性がふわりと微笑んでいた。
誰だろうなぁと見上げていると、ウィルのお父さんが柔らかな声で「妻だよ」と教えてくれた。
「ウィルのお母さんかぁ。すごく綺麗な人ですね」
「っ――――うん。そうなんだよ」
ウィルのお父さんが嬉しそうに、そして懐かしむような表情で絵を見上げていた。心から愛していたんだと伝わってくる。お父さんの生きていてくれたなら、という小さな呟きが聞こえてしまい、心臓が締め付けられた。
「すぐに感傷に浸るな面倒臭い」
「ウィル!」
さすがにそれは駄目だぞと怒ろうとしたら、ウィルのお父さんが苦笑いしながら教えてくれた。アレはウィルなりの慰め方なんだよと。
いやそれは流石に妄想が過ぎませんかね、と思うのだけど、ウィルがふいっと顔を逸らしてる雰囲気からすると正解なのかもしれない。
うぃるふれっどくんや、分かりづらいぞ!?
「お待たせいたしました」
老齢の羊さんみたいな執事さんがワゴンを押して、飲み物やお菓子を運んできてくれた。
ウィルのお父さんに勧められてソファに座ると、フォン・ダン・ショコラたちは素早くクッキーを美味しそうに食べていた。
私の分も残しておいてちょうだいよ?
「さて、とりあえずウィルフレッドが小さいころの話でもしたらいいのかなぁ?」
「ぜひ!」
「やめろ」
ウィルが渋い顔で断固拒否しているがここはスルーでいい。
「その手のネタは俄然やる気になりますので、お教えいただけると幸いなのですがっ!」
「どういうやる気だよ……」
ウィルがなんと言おうと聞き出したい。横でぶつくさうるさいので、ウィルの口にクッキーをドシュッと差し込んで、物理的に黙らせた。





