12:はじめまして、パパン
ウィルのお父さんがあまりにも若くて思考回路が停止した。どう見積もっても四〇代なんだけど!? こんなに若いパパンとか聞いてない。
ウィルは若いか? 七〇〇くらいいってるぞ? とかよくわからないことを言っている。つまりは人間換算したら七〇代ってことでしょ? こんな七〇代がいてたまるか。
「噂には聞いてたけれど、可愛いお嬢さんじゃないか」
「あぁ。妻にする。じゃあな」
――――じゃあな!?
ウィルが私の腰をガシッと抱いて、玄関の外へと向かおうとした。ちょっと待て、じゃあなって挨拶それだけで終わろうとしてるのか、ってか『妻』なの!? え、妻? マジで?
めちゃくちゃ顔が熱い。耳も熱い。夏だからだと思いたいけど、絶対に違うよねこれ。
ウィルってあんまりそういうこと言わないし、なんならサラッと流しやがるタイプで、恋愛とか未来の話とかはめちゃくちゃ暖簾に腕押し感があるんだけど、ここぞというときに、余計な攻撃力を持たせるのやめてほしい。
「るゔぃちゃん? おこった?」
「おおおおこってないよ」
「かお、まっかだよ?」
「ハッ! 照れてるんだよ」
ウィルが楽しそうに笑って言うと、ウィルのお父さんが「おやおや、そんな表情をするようになったのかい」と楽しそうに笑いながら、手すりにひじを付き、手の上に顎を乗せていた。
「アレハンドロはあんまりそういうところ報告してくれなくてねぇ。つまらなかったんだ」
「アレハンドロさん?」
「親父直属の部下だ」
魔国の町を警邏してるのに、お父さんの部下? 意味がよくわからないなぁとなったところで、ふと気付く。挨拶してなかった。
腰に絡みつくウィルの腕を掴んでポイッと投げ捨てて、階段上のウイルのお父さんに向かってカーテシー。
「ご挨拶が遅くなり、大変申し訳ございません。お初にお目にかかります、ミネルヴァ・フォルティアと申します。ウィルフレッド様とは結婚を前提にお付き合いさせていただいております」
それから、と言葉を繋いでフォン・ダン・ショコラを紹介した。
「うんうん。みんなで一緒に住んでるんだってね」
「うぉっ!? はい」
二階の踊り場にいたはずのウィルのお父さんが、いつの間にか目の前にいた。あれか、瞬間移動か。
「「はじめまして、フォン、ダン、しょこらぁ! です」」
卒業式の演物みたいな、可愛い挨拶だった。いや、覚えさせたの私なんだけどさ。いいよね、子どもたちが声を揃えて言うの。それだけでによによ出来るってもんよ。
「うんうん。よろしくね。私はベネディクト。そこにいる仏頂面のウィルフレッドのパパだよ」
「まおーさまのぱぱ!」
「きみは、ショコラくんだったね」
ウィルパパンがショコラの頭を撫でると、ショコラがウィルと同じ匂いがすると尻尾をパタパタと揺らしていた。