二十二歳の小説家未満
天才と馬鹿は紙一重だ。誰が言ったかも分からないそんな言葉が、昔から私の頭の片隅に居座り続けている。
だから私は馬鹿に、頭のおかしい存在になりたかった。
私は天才ではない。才能もない。故に特別にはなりえない。極々平凡な、誰の記憶の中にも生きられない小さなつまらない存在だ。自分自身それをよく理解しておきながら、私は特別になりたかった。周囲にもてはやされ、承認欲求を満たし、唯一無二だと他人から尊敬の念を抱かれたい。数百年後も名の残る存在になりたい。一人寂しく死ぬような孤独な死者にはなりたくない。ただそんな思いを漠然と抱き、私は今日も生きている。
なんとまあ、欲深さを絵に描いたような存在なのだろうか。
願いだけは一人前に持ちながら、だからと言って行動を起こすわけでもない。日々何かと言い訳をして楽な方へと逃げる毎日。ゲームのイベント、友人との通話。理由を付けて執筆の時間を取らず、書きかけの話ばかりが積み上がる。数行の文章で満足し、書かないよりは良いと充実感を満たし眠りにつく。
本気で書いたことも無ければ、最後に話を終わりまで書けたのがいつだったかも覚えていない。これでよく他人からの尊敬だの、名の残る存在だのと言えたものだ。
私は天才どころか、短編さえも書ききれない普通以下の存在だというのに。努力は一種の才能だと言うが、私は努力以前の段階で止まっている。努力が嫌いで、努力する事からも逃げているのだ。
私は天才に並びたい。だから馬鹿に、頭のおかしい存在になりたい。だがその前に、小説を書いていると堂々と言えるような作家未満の人間に私はならなければいけない。その為には才能がなくとも、書き続けるしかないのだ。