二章 1話
いつも通りの定例会を終えた生徒会室は、真面目な空気から解き放たれた反動で和気藹々とした会話に満たされていた。
空気を変えたのは生徒会役員の一人、新倉健一の一言だった。
「例の生徒、目が覚めたらしいな」
秋宗に向けられたその台詞によって、他の役員全員の目も会長へと向けられた。
「ああ」
例の生徒というのは和人のことであり、その事を生徒会全員がわかっていた。
秋宗が短い返事を返すと、健一はそれに間髪入れずに口を開く。
「それで、どうするんだ秋宗?」
健一は生徒会に3人いる三年生のうちの一人だ。好戦的な雰囲気を隠そうとしない健一だが、その実力は折り紙付きであり、秋宗にタメ口で喋ることのできる数少ない友人でもある。
「彼を生徒会に入れる」
「もしも彼が断ったらどうなさるので?」
健一の向かい側に座っている生徒が笑みを浮かべて秋宗に問い掛ける。秋宗の言い方はまるで決定事項のように聞こえた。
「彼に断るという選択肢は無い」
問い掛けた生徒は予想通りの答えが返ってきたことに笑みを深める。
「だがもし仮に断ろうとしたなら、その時はお前に任せる、蓮」
「ええ、任せてください」
質問をした本人である蓮と呼ばれた生徒は、顔に浮かべた笑みの種類を変化させた。
状況を楽しむ笑みから、獲物を狙う好戦的な笑みへと。
「俺も直接戦ってみたかったんです」
蓮は、秋宗や椿咲と共に例の模擬戦のデータを見たうちの一人だ。ちなみに、もう一人いた役員は最初にこの話題を持ち出した健一である。
「頼りにしているぞ」
現役の特殊兵を知っている秋宗からしても、蓮の戦闘力は目を瞠るものがある。
「お前が負けることはないだろうが、まだ相手の実力に不明な点も多い。いざ戦うことになっても油断はするなよ」
例の生徒を本格的に勧誘するにしても、事前に下調べをしておかねばならないだろう。
「まあ、彼が断らなければお前の出番も無いがな」
秋宗のこの一言は、もはや蓮の耳には入っていなかった。
◇ ◇ ◇
「カズト、お前クラブどうするか決めたか?」
今日の授業で出された課題をやっていた浩太が、唐突にノートから目を上げて和人に話し掛けてきた。なお、和人は既に課題を終わらせてベッドの上でくつろいでいる。
場所は寮の和人の部屋。
克己との試合があってから一週間と一日。和人が意識を取り戻してからまだ5日と経っていないが、浩太は相変わらず和人の部屋に入り浸っていた。
とはいえ、和人もいまさら拒むことはない。前にも言った通り、もはやこれが当たり前の日常となっていた。
黒紬は一般教科の教育水準も高い。一般教科に加え黒紬などの特殊兵養成学校特有の学科、通称「特科」も追加であるとなれば、並大抵の勉強量では付いていけない。浩太が和人の部屋に来るのは、勉強を教えてもらうためでもあるのだ。
今も今日習ったばかりの数学の課題に悪戦苦闘しており、助言の一つでもしてやるか、と和人が思い始めたところで、冒頭の台詞に戻る。
「いや、まだ何も」
クラブについての話は和人が寝ている最中にされたことだが、和人が出席できなかった日の連絡事項については既に三田村先生から直接伝えられている。
試合があったのは日曜日。和人が意識不明だったのは丸3日で、そこから授業に参加できるレベルまで快復するのに2日。つまり先週、和人は金曜日しか出席できていなかった。そして同日に全ての連絡とプリント、そして課題を受け取っていた。
「そっか。オレも悩んでてよ。特に入りたいってやつもないし、どーせならカズトが入るとこにオレも入ろうと思ってよ」
「絶対に入らないといけないわけではないんだし、期限もあるわけじゃない。俺はもう少し落ち着いてから考えるさ」
「ならオレも、もうちょいじっくり考えることにするわ」
「ああ。それが良いんじゃないか」
会話が気分転換になったのかどうかは分からないが、浩太は再びノートに向かって唸り始める。
(アドバイスするのはもう少し後にするか)
落ち着き、といえば月曜日のC組は一時騒然になりかけたらしい。クラスメイトが突然意識不明になれば当たり前の反応かもしれないが、しかしそこは上手く三田村先生がとりなしたらしい。
結局和人が意識不明となった理由については、印南先生達でも分からずじまいだった。
今後、和人が仮想演習場を使う際には十分な注意と印南先生を含む医務員の誰かが常に和人の健康状態をモニタリングする、という決まりが作られた。印南先生曰く、とりあえず一ヶ月はこの状態での経過観察が必要らしい。
仮想演習場を使用することに対しての制限がないのなら、和人本人には特に影響はないのだが、学校側からすれば今回の一件はいい迷惑だろうな、と和人は他人事のように考えていた。
翌日、和人は教室に向かう前に、教室がある本棟の隣に建っている建物へと向かっていた。
もう何度も通った廊下を案内板を見ることもなく歩くと、すぐに目的の場所へとたどり着いた。
「一年C組の八神和人です」
「どうぞ」
ノックはせず扉の前でそう告げると、すぐさま若い女性の声が返ってくる。
和人は遠慮すること無くスライドドアを開けて中に踏み込む。中に入るとそこはコーヒーの匂いに満たされていた。
先程の返事の主、印南先生はデスクチェアに座ったままくるりと半回転し、その体の向きを机から和人へと変えた。
「今日は早いね」
「はい、いつもより早く起きたので」
「そうか、早起きは良いことだな」
印南先生はデスクチェアの上で足を組み、満足げに頷いた。
和人の台詞には一部語弊があり、正確を期すならば和人がいつもより早起きしたのではなく、浩太が早起きをした、と言うべきだろう。前日終わらせることの出来なかった課題を抱えた浩太から、朝一番にモーニングコールならぬヘルプコールを和人は受けたのだ。
それに付き合った和人はいつもしていた早朝のトレーニング──最近はリハビリというべきか──を早々に諦め、浩太の課題にキリがついたタイミングでここに来た。 とはいえその誤解を解く必要性を感じなかった和人は、訂正することもなく印南先生の次の言葉を持った。
「とはいえ、今日伝えられることはあまりないんだがな。ま、とりあえず座ってくれ」
和人は勧められるがままに部屋の真ん中にある椅子に腰を下ろす。
今更ながら、和人が今いる部屋は印南先生のオフィスで、保健室や医務室とはまた違う場所だ。部屋の作り的には病院の診断室に近いと言える。
「あれからまた調べてみたが、やはり君が意識不明になった原因について新しく分かったことは無い。というかここにある設備ではわからないと言ったほうが良いかもしれないね」
印南先生は手に持ったタブレットを見ながら和人に説明してくれる。
彼女が元軍医で、しかも特殊兵関連の医療に関する専門家であることに関しては、和人も既に聞かされている。そんな彼女からすれば、確かに学校の設備だけでは不満があるのかもしれない。
「まぁなんだ。今の君に特に不調がないということに、私は安心しているよ」
印南先生は美少年ともいえるその顔をニッコリと笑顔に変える。 同じく高身長である和人のクラスの担任の三田村先生が「美女」であるのに対し、目の前でその長い脚を組む印南先生はボーイッシュな雰囲気を醸し出していた。女性としては体格ががっちりとしている三田村先生と、かなり細身な印南先生では見た目で感じる印象というのはかなり違う。しかし、和人はその二人から何処となく似た雰囲気を感じていた。
(軍人時代に接点があったのか?)
和人から見ると二人ともまだ二十代から三十代前半に見える。その年齢で「元」と付くならば丁度和人が軍にいたタイミングと被っていると思ったが、記憶を振り返ってもその中に印南先生と三田村先生の顔はなかった。
ただまあ、和人は「軍にいた」というだけで、その特異性から他の軍人とはほとんど接点が無かった。直接会った数少ない大人を除いて、そのほとんどが実際に戦場でギアを着た状態で会った人達だ。顔に見覚えがなくても当然かもしれない。
それに、軍医ということで言えば和人はとある変わり者の軍医一人だけにお世話になっていた。しかし、黒紬に教師としてきているということは三田村先生は元特殊兵だっただろうから、もしかしたらギア越しでなら過去に会っていたかもしれない。
少しの間上の空になっていた和人を知ってか知らずか、印南先生はしばらく間を開けてから話を続けた。
「ただ、今後も同じことが起こらないとはいえない。専門家だというのに、私が不甲斐ないせいでしばらく君に我慢して貰う必要が出てしまった。ごめんね」
印南先生は組んでいた足を床に下ろすと、正面から和人を見て謝罪の言葉を口にした。
「いえ、気にしないでください。こちらこそ先生方に手間と心労を掛けてしまっていて申し訳ないです」
突然の印南先生の謝罪に驚いた和人だったが、すぐさま自身が思う最適な対応を返した。
「ふふっ、それこそ気にする必要はない。私達は生徒を守るのが仕事だし、それに今回の事例だって君が起こさずとも未来の誰かが起こすかもしれないだろう? だから対策を講じるのは当たり前であって、君が気に病む必要なんてこれっぽっちもないんだよ」
それは先生として、そして大人として子供に責任を感じさせないためだけの建前だったのかもしれないが、和人には印南先生の本音のように思えた。
「まっ、こんな辛気臭い話は止めにしよう!」
印南先生は手をパンッ、と手を叩くと後ろの机から封筒と紙を一枚手に取った。
「昨日の検査結果でも特に異常は見られなかったし、後遺症が残ってるわけでもない。仮想演習場を使う時のモニタリングは続けさせてもらうけど、これからはもうここに来なくてもいいからね」
そのまま手渡された書類には、昨日受けた検査の結果が記されていた。
「はいこれ、その証明書とその他諸々。封筒は三田村先生に渡してね」
印南先生に感謝の言葉を告げると、和人はそそくさと教室へ向かった。 朝礼開始まであと10分。きっと浩太が課題の前で待っていることだろう。
そのままほとんど変わりなく和人の一日は過ぎていった。初日こそ宙や光、海翔たちに休んでいた理由を聞かれたりしたが、それ以降は多少そわそわした雰囲気はあるものの、普段と変わらない日常に戻っていた。
変わったといえば、和人よりも克己のほうだろう。模擬戦があった日から剣呑な空気が和らいだという。今まで和人が見てきた人物像から考えると、再びリベンジするためにピリピリしていると思っていたのだが、どうやらそう単純では無いらしい。
(どうであれ、俺も気を付けないとな)
前回のようなことになるのを避けるというだけでなく、トラブルの種になるものを避けるという意味でも。
「今日は訓練無かったですよね」
「ああ」
隣の席で帰りの支度をしていた優樹菜が確認するように訊き、和人もそれに応えた。
和人たちに遅れながらも、他のクラスメイトたちも本格的に仮想演習場を利用するようになったことで、予約を取るのも難しくなってきていた。
「それがどうかしたか?」
なにか言いたげなのを察した和人が声を掛けると、優樹菜は意を決したように口を開いた。
「あのですね、もしよければ皆さんで出掛けてみたいな、と」
目を逸らしながら言う優樹菜の顔を見ながら「なるほど」と和人は頭の中で独り言ちた。
学校の敷地内にもちょっとした商業施設があるとはいえ、年頃の女子が楽しめるレベルなのかといえばそうではない。特に衣類品は下着などの替えが必要になる可能性の高いものや、それ以外があったとしても基本無地の変わり映えのしないものばかりだ。校内は原則として制服着用が規則にはなっているものの、部屋着は日常的に使用するものだし、部屋に人を呼ぶなら人目につく機会も多い。
ちなみにだが、黒紬もちゃんと申請すればその日の内に外に出ることができる。無論、マナリングなどの軍事品を預けてからではないといけないが。
「俺は良いが、他の奴らは?」
「はい! 冬美さんも浩太さんも大丈夫だそうです!」
もしかしたらチーム以外の人もいるかも知れないと身構えた和人だったが、どうやら杞憂だったようだ。
和人の中に面倒くさいという感情が無いわけでも無かったが、人付き合いが全て嫌いというわけではない。それに、なんだかんだ言って実際に行けば楽しめるものだ。
「分かった。何時集合なんだ?」
学校から外出するなら、制服から着替えて荷物も置いてこなければならない。
「五時くらいでいいかなぁ、と」
今日の終業時間が四時過ぎなので妥当な時間か、と思いつつ荷物をまとめ終えた優樹菜と共に教室の扉へと歩く。
しかし、和人がどう思っていようとトラブルは向こうの方から歩いてやってきた。
「ねえ君、ちょっと話があるんだけど」
人当たりのよさそうな爽やかな声が和人の耳に届いた。
下校の時間帯、教室の出入り口周りには他の生徒もいたが、扉をくぐった瞬間に言われれば人違いだと思いようもない。
扉の横には和人よりも少し身長が低いくらいの男子生徒が立っていた。胸には2年生を示すバッジと、生徒会に所属している生徒のみが着ける花のモチーフのバッジが輝いていた。
(生徒会……)
「八神君だよね?」
知らない上級生、それも生徒会役員から名前付きで呼び止められては、和人も動揺せざるを得ない。このタイミング、そして生徒会関連とあらば心当たりは一つしかない。
(絶対に模擬戦についてだ……)
明瞭ではないにしろあの日の記憶はあるし、仮想演習場を使用した際に記録が残ることは知っていた。──それを生徒会が閲覧できるということも。
「そうですけど」
「良かった良かった。あ、俺は仲嶋蓮。見ての通り生徒会だ」
言外に急いでいるというニュアンスを込めながら言い放ったが、気付いてないのかそれとも気付いたうえで無視しているのか、目の前の上級生はお構いなしに話を続けた。
見た目も声も好青年然として、宙や海翔と同じく好印象を抱かせるものだったが、和人はこの手の押しの強い人間が苦手だった。
「それで、この後時間はあるかい?」
「すみません、これから友達と出かける予定があるので」
和人の後ろで話を聞いていた優樹菜にチラリと視線を向けると、蓮に向かって軽く頭を下げた。
これで話は終わりと背を向けようとしたが、連はそこで引き下がるほど甘くはなかった。
「そっか、それは残念。なら明日はどうだい?」
「明日は……いえ、大丈夫です」
一瞬断ろうかとも思った和人だったが、漣の様子を見てこのままだと明日が駄目ならまた明後日、といつまでも続きそうだったのでしぶしぶ頷いた。
「じゃ、また明日来るから!」
漣はそれを言うだけ言って廊下の先へと足早に消えていった。
(面倒くさいことになったな)
何か聞かれたところで生徒会が仮想演習場のデータを閲覧できる以上、模擬戦に対しての質問は意味がないだろう。それならば和人の過去について訊かれるのが一番あり得る可能性だが、残念ながら和人は自身の過去について話すつもりは一切ない。
つまり、どっちにしろ意味はないということだ。
確かにさっきの発言に嘘はなく、明日予定があるというわけではないのだが、やっておきたいことというものはあるし、いたずらに時間を浪費するのは誰だって嫌だろう。
「和人さん?」
一人で考え事をしてしまっていた和人に、優樹菜が心配そうに声をかける。
「ん、ああ。行こうか」
もう他の生徒たちはほとんど廊下から歩き去っているか、数人がまだ教室の中で友人と喋っているばかりで、和人と優樹菜はまばらに散らばっている生徒たちを間を寮の手前まで一緒に歩き始めた。
黒紬高校から外出するときは、原則として制服の着用は認められていない。学校の敷地外へ制服を着たまま出るときは授業の一環としてか、一部のクラブ活動などで認められた場合だけになる。
和人たちは入学前に持ってきていた私服に着替えて五時になる十分前には正門に集合していた。ちなみに浩太が最も早く到着していて、遅れて和人、そして最後に優樹菜と冬美が二人で一緒にやってきた。
「すみません、待たせちゃいましたか?」
「いや、俺も着いたばかりだし集合時刻まではまだ時間がある」
「おう! カズトの言う通り気にしなくていいぜ」
「思ったより早かったぐらいだ」
和人だって詳しいわけではないが、女子は出かける準備に時間がかかるという俗説くらいは聞いたことがあった。寮の前で別れてから十五分程度で用意を終えた和人だったが、優樹菜はそんな和人が集合場所に着いてから五分程度遅れただけだ。
「なんだ、貴方のことだから遅刻すると思っていたわ」
これは冬美から浩太に向けられた台詞。
「な! オレが一番最初に着いたってのによ」
「まあまあお二人とも落ち着いてください。ほら、時間も多いわけではないですし早く行きましょう? ね」
それを優樹菜がとりなす流れも最早いつものことになっていた。
その後すぐ近くにある正門の警備員詰所に向かうと、和人一行の外出許可は存外早く下りた。マナリングについてもここで預かってもらうことになっている。
「にしてもなんで制服で外出が禁止なんだ?」
正門から大きな商業施設のある市街地までの長い一本道を歩いている途中で、浩太が疑問を口に出した。
「普通の学校ではありえない校則だろ?」
「確かに言われてみればそうですね」
優樹菜が頷く。
二人がうーんと唸っている横で、和人と冬美はすぐに答えを出していた。いや、この校則を知った時点で最初から答えを導き出していた。
「私たちのためよ」
答えを出せないままの二人を見かねて冬美は自分が出した答えを二人に伝える。
「オレたちのため……?」
「ああ、そういう」
これだけでは浩太には言葉が足りないようだったが、優樹菜には十分なようだった。
黒紬の制服を着ているということは、将来の国の防衛を担う子供ということだ──成人年齢が引き下げられてるとはいえ、高校生が子供の範疇であることに異論はないだろう。特に軍人としては。
特に黒紬に通っているということはこの先軍に入る場合、ほとんど特殊兵として、ということになる。将来的に戦力的、戦術的な価値の大きい特殊兵になる可能性の高いそんな彼らを狙う国や組織が国内に侵入していないとは限らない。子供だとしても、将来の敵だとしてそれを容赦なく排除しようとする人というのは残念ながら多く存在する。それが戦争ということなのだろう。
これ以上何も言わない冬美に代わって、優樹菜がこのことを浩太に掻い摘んで説明した。
「ほぉー」
自分が狙われているかもしれないという説明だったにも関わらず、浩太は緊張感のない相槌を打つ。
「ま、身分を隠す相手ってのは敵だけというわけではないがな」
「?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべた二人を見ながら、優樹菜の説明には無かった部分を追加で話す。
「いくら国のためとはいえ俺たちは既に立派な軍の関係者ってことになる。しかも従来の武器を使った戦闘員というわけではなく、魔力というまだ解明が進んでない未知の力を使う特殊兵だ。一般人にはまだマナゾーンとかの魔力技術について正しい知識を持っている人は少ない。未だに多くの人にとって俺たちはどこからともなく戦闘機や戦車すら凌駕する兵器を取り出せる恐ろしい存在だ」
和人が言ったことを飲み込むのに、浩太と優樹菜は数秒の時間を要した。
「オレたちは別にそんなことしないぜ? それにマナリングは学校に置いて来てんだからよ」
「それでも、だ。理性で分かっていたとしても、恐怖心はそんな簡単に消せるわけではない」
浩太はまだ納得しきれてないようだが、優樹菜はその理不尽に近い状況を理解したようだ。
「私たちだってまだ高校生なのに笑っちゃうわね」
冬美が言葉だけではなく実際に笑みを浮かべながらそう言う。……苦笑いに近いものだったが。
「そうだな。まあそれも一部の人の反感を買う原因になってしまっているんが……」
「士官高校に対して反対派の人たちですよね」
和人の台詞に優樹菜が反応する。
高校生が戦争に出るために黒紬などの特殊士官学校に通うことに関して反対運動をしている団体もいる。
実際は黒紬に入ったところで軍に所属することを強制されるわけではないし、黒紬に入る生徒のほとんどは自分の意志で入ってきている。
「別にここに通わずとも軍に入ることはできるし、そういう人も実際いるというのにね」
「都合の悪いことからは目を逸らし、知っていることを理解しない。そうして自身の主張の正当性だけを叫ぶ輩なんてどの時代にもいるものだな」
自分で言っていて悲しくなってきてしまうが、それで現実が変わるわけでもない。
「……なんかシリアスな話になっちまったな」
「誰が最初に言い出したと思っているのよ」
冬美の視線を受けて浩太が誤魔化し笑いを浮かべた。
その後は特に何もなく買い物を楽しみ、門限である八時までに学校に戻ってきた。
買い物は複合施設の中を順繰りに全員の行きたいところを回り、最後には全員で夕食を食べて帰った。ちなみにそれぞれが提示した店は、優樹菜と冬美が男性ものも売っているファッションショップ、浩太が運動靴がメインのスポーツ店、最後に和人が本屋といった具合だ。
学校に戻ったあとは寮の前で別れて、和人と浩太もそのまま一度部屋に戻って今日の収穫を片付けた。
和人が今日買った本三冊を棚に置き、明日に響かない時間まで読書でもしようかと一冊選ぼうとしたところで、部屋のインターホンが鳴る。
「おーい、入っていいかー?」
「それは扉を開ける前に言うセリフだろ」
インターホンで応答する前に部屋の扉を開けて入ってきた浩太にツッコミを入れつつ、手に取っていた一冊の小説を棚に戻した。
「おっ、確かにそうだな。わりぃわりぃ」
全く悪びれてない浩太が部屋に入って遠慮なく今に置いてある座卓の前に座る。和人もそれに何か言うこともなく浩太のほうにクッションを投げ渡した後、自身はベッドに腰掛ける。
「そういやカズト、先輩に呼び出されたらしいな。なぁにしでかしたんだ?」
浩太はニヤニヤしながら和人に言う。
「しでかすも何も、別になんもやっちゃいないぞ。まあ、おおかた先週の試合のことだろうが」
「ああ、あれかぁ。オレは先に落ちちゃったからちゃんと見てねーけど、すごかったらしいな! イツキ先生とオレよりも一足先に観戦できてたユキナが言ってたぜ」
(それを俺がちゃんと覚えてないのが問題なんだが……)
おぼろげに覚えているのは過去のトラウマと似た光景を見てしまったということと、それから我を見失っていたということ。そして克己を斬ったということだけだ。
もしかしたら記憶のないその時に何かしてしまったのだろうか……。
(明日の朝にでも優樹菜に聞いてみるか)
「なあ、ど……いやなんでもない!」
何か訊こうとした浩太だったが質問の内容を言う前にすぐに頭と手を振って中断した。
「えーっと……そうそう、今日のお前の特技凄かったよな!」
話を変えようと話題を探し出した浩太を見て、必死に頑張る子供を見守っているような気分になって和人の中から自然と笑みが湧き出してくる。
「ユキナもフユミのやつもいろいろ特技持ってるし……っておい! なににやけてるんだよ!!」
和人が自分を見て微笑んで(笑って)いるのに気付いた浩太が焦ったように叫ぶ。
その子供っぽいところを見て余計に笑いが込み上げてくる。
「だからなに笑ってるんだよー!!」
「すまんすまん、特に理由はないんだ。気にしないでくれ」
和人は耳まで真っ赤にしてしまった浩太に謝罪する。
「それで気にしないやつがいないって知らないのか? ま、いーけどよ」
「本当に悪かったって」
諦めるように言う浩太に再びの謝罪をすると、和人はもう一つクッションを手に取って──このクッションも今日の成果──ベッドから腰を上げて浩太の前に座りなおす。
「で、どうせ今日の授業で分からなかったことでもあるんだろ?」
和人は全て分かりきっているかのように浩太に尋ねる。
浩太が和人の部屋に来るときは、本当に話がしたいというためだけに来るときももちろんあるが、大半がその日の授業についての質問か、明日出さねばならない課題があるときのどちらかだ。明日提出の課題はないので必然的に候補は一つに絞られる。
「おっ、話が早くて助かる。」
既に時計は9時近くを指しており、和人としても早めに終わらせておきたいところだった。
和人は普段勉強に使っている自分の机へと向かい、浩太がの言う今日わからなかった科目の教科書と自身のノートを座卓へと運んだ。
その次の日の朝、和人はほかに誰もいない教室で一人小説を読んでいた。
普段よりも一時間以上早めに来た教室は日中の賑やかな雰囲気に慣れていると違和感とともに一種の寂しさに似た空気を醸し出していた。
「おはようございます」
静かな教室で黙々と本のページをめくっていると、不意に聞きなれた声が右上の方からかかった。
「おはよう」
いつも通りの制服を着た優樹菜がそこには立っていた。
「なぁんだ、驚かないんですね。折角忍び寄ったのに」
「足音を立てないようにしただけで俺の背後をとれると思うなよ?」
「ふふっ、もしかしてそれも特技ですか」
和人が冗談めかして言うと、優樹菜も微笑みながら問い掛けてきた。
昨日浩太と話した時にも出てきた和人の特技というものだが、特になんてことはないものでもある。
浩太の希望で行った靴屋にて、浩太や優樹菜たちの足のサイズを的中させ、さらにその足に合った靴を見繕ったというだけだ。靴のデザインによって同じサイズでも微妙に大きさというものは変わるものだが、和人は浩太たちの具体的な足のサイズを聞くことなくピッタリのサイズを一発で見つけることができた。
それ自体は多少靴に詳しかったり、目測が得意な人であればできる特技ではあるものの、和人のそれはほぼ誤差のない完璧なものだったというのが浩太たちをここまで驚かせた要因だ。
「いや、ただ教室に入るまでの足音が聞こえてただけだ」
実際には和人の能力とも言うべきその特技でもわかっていたのだが、教室に入るまでの足音が聞こえていたのも事実なので嘘は言っていない。と、和人は心の中で誰に向けたわけでもない言い訳を考えていた。
「あっ、そっかぁ。その時点でバレますよね。う~ん、まさか先に教室の中に和人さんだけがいるとは思わなかったんですよね」
(つまり誰もいないと思っていた教室に俺が先に一人でいたからわざわざ声をかけずに驚かせようとしたというわけだ)
真面目な優等生というイメージだった優樹菜の茶目っ気な一面を知って、和人の中の優樹菜に対する認識が少し変わった。
「和人さんはいつもこの時間に来てらっしゃるんですか?」
「いや、今日は昨日買ったこれを読もうと思ってな」
手に持っていた本を掲げた。
「優樹菜もいつもこの時間に?」
和人も気になっていたので優樹菜に同じ質問を返すと、優樹菜は何やあら意味ありげな笑みを浮かべながら手に持っている鞄の中に手を入れる。
「実は私も和人さんと同じ理由でして」
鞄から抜かれた優樹菜の手には、昨日買ったのであろう新品と思しき小説があった。
「奇遇だな」
「ええ、そうですね」
優樹菜が席に座るのを待ってから、和人は再び口を開く。
「本を読もうとしているところ悪いんだが、一ついいか?」
「はい、なんでしょう?」
手に持っていた本を机に置いて、優樹菜が和人のほうへ向き直る。
「先週の試合についてのことなんだが、覚えていることを教えてくれないか」
「もしかして、昨日の生徒会のあれにも関係してるんですか?」
「ああ、確証はないがそうじゃないかと思っている。というかそれ以外に生徒会に呼び出される理由が思い当たらないしな」
「う~ん、そうですねぇ。和人さんが気になっているのは多分私がやられてからのことですよね?」
「そうだ」
何から話そうかな、と悩んでいる優樹菜に、一つの疑問を投げかける。
「そういえば、他の奴らから試合について訊かれたりしなかったのか?」
「それについては三田村先生から口止めされてまして。和人さん自身にも『本人から訊かれない限り模擬戦についての話は極力するな』と言われてまして」
「そういうことか……」
(どおりで病室から学校に戻ってきても他の奴らや浩太たちからも何も訊かれなかったわけだ)
おそろく克己たちも同様に三田村先生から口止めされているのだろう。そして克己たちもその約束を守っているということだ。
「それで、私が覚えてる限りの試合についてなんですけど……」
優樹菜から話された模擬戦についての内容は、概ね和人の記憶と合っていた。
「それから、冬美さんが克己さんに持ち上げられたあたりでいきなり和人さんがいた場所で爆発が起きたんです」
(丁度記憶が曖昧になり始めたところだな)
「それで和人さんを抑えつけていた聡一さんが爆発に巻き込まれてそのままやられてしまって、和人さんは何故か無傷だったんですよ! あれってどうやったんですか?」
「残念だけど、俺も無我夢中で何をしたのかよく覚えてないんだ」
「そうなんですね……」
和人の返答を聞いた優樹菜は、しょんぼり、という表現をそのまま実体化したようにテンションが下がってしまった。
「ごめん優樹菜。本当によく覚えてないんだ。逆に優樹菜はどう思ったんだ?」
「どうやら克己さんたちのギアには自爆装置のような爆弾が装備されているようなのでてっきりそれかとも思ったんですけど、それなら和人さんが無傷なのはおかしいですし、和人さんのギアにもそのような武装が無いと聞いていたので不思議だったんですよね」
無意識なのか、優樹菜の声がどんどんヒートアップしていく。
「それで、聡一さんがやられた時の損傷からしておそらく和人さんのギアのスラスターから出た魔力に焼かれたたんじゃないかと。でもスタンダードタイプをあんな短時間で戦闘不能にするレベルの魔力なんてそれこそ未だ実用化されてない魔力型レーザー兵器じゃないとできませんし、そもそも和人さんのギアでは普通そんな出力を出せば相手を戦闘不能にする前に自壊してしまうはずなんですよ。もしかしたら和人さんが驚異的な魔力操作で巧く流れをコントロールできるならあるいは……」
ここまで一息に言い切った優樹菜は思案顔になると、突然顔を赤くした。
「ってあっごめんなさい。一人で勝手に盛り上がってしまって」
耳の先まで赤くした優樹菜が今度は顔を隠すように再び俯いてしまう。
「いや気にするな。質問したのはこっちだし、いろいろと勉強になった、助かったよ。優樹菜は本当にギアや周辺知識に詳しいんだな」
先程の質問はどう声をかけようかと悩んだ和人が苦し紛れに優樹菜の意見を聞こうと思っていった発言だったが、予想外の収穫であった。
「いえいえ私なんて、和人さんのほうがよっぽど詳しいでしょう。それこそ自分のことですし和人さん自身が模擬戦を見ればわかることも多いのでは?」
「それなんだが、これも三田村先生に止められていてな。見ようにも見れないんだよ」
普通は仮想演習場内のデータは生徒会と職員以外にも、そこを使用した当人も閲覧できるのだが、和人たちが行った試合には一部職員以外が閲覧できないように規制がかけられてた。
「そうそう、その爆発の時に青い光が出ていたんですけど、最後克己さんにとどめを刺した時にも青い光の玉が和人さんの手に握られていたんですよ。もしかしてあの青い光って発振状態の高密度の魔力なんじゃないかなって。もしそうなら凄いことですよ! 魔力だけで特殊兵を倒すほどの火力を出せるなんて、今までの科学技術ではできなかったことなんですから。……どうかしました?」
再び饒舌に語りだした優樹菜だったが、途中から顔色を変えた和人を見て心配そうに話を止めた。
優樹菜から見た和人の顔には「やっちまった」と書かれていた。
「な、何でもない」
「本当ですか? 何やら心当たりがあるようですけど」
優樹菜の予想外の追及に和人は黙り込んでしまう。
「もしかして隠してた武装か何かでもあるんですか!?」
優樹菜は途端に目を輝かせながら顔をぐいと近づけてくる。
人は焦ったときにそれをリカバリーしようと更に窮地へと自ら進んでしまうものだ。
「い、いつか見せるよ」
優樹菜の圧に負けてそう口走ってしまったときにはもう遅かった。優樹菜は椅子から飛び上がるような勢いで上半身を揺らしながら満面の笑みを浮かべていた。
「本当ですか! 絶対ですよ!!」
「あ、ああ」
その返事は苦笑いを伴っていたが、優樹菜の眼中にそんなものは写っていなかった。
(どうしたもんかな……)
「それにしても,今日はいったい何をするんでしょうね」
「ん、まあ普通に話を聞くだけじゃないのか? とはいってもさっき言った通り俺は何も憶えてないんだがな」
もしも生徒会のメンバーも優樹菜と同様にあの光に興味を持ってあたりを付けていたとしたら……。
「ま、なんとかなるだろ」
和人がそう発言した後は、再び教室が静寂に包まれた。
二人は何も言うことなくそれぞれが買った本を取り出すと、自分の席で静かにそれを読み始めた。
それから和人がページを10枚程度めくったタイミングで、優樹菜の時と同様教室の後方側の扉から声がかかった。
「貴方たち二人きりなのに何してるのよ。しかもそんな教室の端っこで」
「冬美か」
「おはようございます。冬美さん」
冬美はいつもと同じ鞄を肩に掛けて教室の扉に手をついていた。
「おはよう、優樹菜。貴方は朝の挨拶はしてくれないのかしら」
「ああおはよう。隅も何も俺たちの席はここなんだから仕方がないだろう」
確かに教室内に二人しかいないのにその二人が最後列の端っこなのだから、なんとなく冬美の言いたい気持ちも分からないでもなかった。
「冬美も本を読むために?」
「私は普段からこの時間よ」
冬美はふんっと顔を背けて自身の席へ歩いて行ったが、荷物を置くだけ置いてすぐに和人たちの席へと戻ってきた。
「それで、何の話をしていたのかしら?」
冬美は優樹菜の手にある本がほとんど読み進められてないのを見て、二人が何か話をしていたのだろうとあたりを付けてそう尋ねてきた。
特に隠すようなことでもないので昨日の出来事を話すと、冬美は何か思い当たることがあるようで意味深な笑みを浮かべながら和人を見つめてきた。
「その上級生、二年の仲嶋蓮と言っていたのよね?」
「そうだが……?」
それがどうかしたのか、と首をかしげる和人と優樹菜に対して冬美はさらに笑みを深めた。
「その人確か『最速の特殊兵』って言われてる人よ」
「有名なんですか?」
優樹菜とは違い口には出していないものの、和人も同様の疑問を持った。
「ええ、仲嶋蓮は現代最速の特殊兵として知られているの。去年、つまり入学時点ですでにその頭角を表してきて、秋の時点で上級生顔負けの戦闘力だったそうよ」
「それで最速っていうのは?」
和人にとっては強さそのものよりも『最速』という二つ名に興味があった。
「文字通りの意味よ。彼の戦闘スタイルは圧倒的速度によって相手に何もさせないというものだそうよ」
「速いといってもあくまでギアでの話だろ。音速を超えることはないんだし、別に音速ギリギリまで加速できる特殊兵なんて他にもいるだろう。まさかそいつは音速を超えるのか?」
「それは流石に無いわよ。どうやら彼は加速がとにかく速いらしいの。そしてその速度の中でもしっかり意識を保って体を動かすことができる」
なるほど、と和人は心の中で納得すると同時に感心していた。
和人自身も音速近くまで加速することはできるが、あくまでもできるだけであって戦闘中にその速度を出すことはない。そこまでの速度を出そうとするとかなりの加速時間が必要なうえに、それだけの速さを出しているとまともに戦えないからだ。
速ければ速いほど旋回や制動するときにかかる負荷も大きくなるし、距離も長くなる。しかも空気抵抗は速さの二乗に比例して大きくなっていくので、そんな状態ではまともに武器を持ち上げることもできない。和人が軍にいた時にもそんなことができる特殊兵はいなかった。
和人の中で仲嶋連という上級生に対しての興味が俄然湧いてきた。
(まあ戦いたいというわけではないが)
「何にやけているのよ」
それに戦うこともないだろう、そう思っているはずの和人の顔は確かに笑っていた。
「ん、なんでもない。高校二年生の時点でそれだけの事ができるなんてすごいなぁ、と感心していただけだ」
この台詞も嘘ではない。
「貴方も大概だと思うけれどね」
「それはどうも」
冬美と目が合い、何とはなく二人で小さく笑う。
「も、もしかしたら和人さんのその強さを見込んで生徒会に誘おうとしてるんじゃないですかね!」
そんな二人に挟まれた優樹菜が焦ったように声を出した。
「あの一戦だけでそんなことにはならないと思うが……」
「実力を見極めるために模擬戦を挑まれたりしてね」
「それこそ無いだろう。入学したての新入生に上級生が、それも生徒役員の実力者が模擬戦に誘うなんて。生徒会はそこまで暇ではないだろう」
「可能性の話よ。それにいいじゃない、『最速』を直接体感できるなんて滅多にない機会なんだし」
正直和人の中にも直接見てみたいという気持ちがあったが、それ以上に面倒くさいことに巻き込まれたくないという気持ちのほうが勝っていた。それに、和人だって負ける戦いをしたいわけではない。
「その蓮ってやつがよほどの戦闘狂でもない限りそんなことにはならないさ」
冬美も半分冗談で言っていたのか和人の台詞を聞いて「ま、そうよね」と言って首を竦めた。
「もしも生徒会に誘われたら和人さんはどうするつもりなんですか?」
「普通に断る。めんどくさそうだし」
「いいんですか? 生徒会に入れるなんて凄いことですよ!」
「そこまで向上心があるわけではないんでな」
「絶対勿体ないですよ~。ね、冬美さん?」
話を振られた冬美は何とも言えない顔をした。
(そういやこいつの兄だったな。生徒会長は)
優樹菜も冬美の顔を見てそれに気づいたのかバツの悪そうな顔になった。
この様子から察するにやはり冬美と秋宗の間に何かしらの確執があるのは間違いないだろう。
「生徒会に入るも何も、これは仮定の話だからな。授業後のお楽しみってやつだ」
和人は気まずくなってしまった空気の中でおどけたように言う。
「まぁ、楽しくはないだろうが……」
教室の中に静かに響いた和人の声に、優樹菜と冬美の笑い声が続いた。




