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第67話 『運命すらねじ伏せる者、アルティメット・サモン』

 模造紙の魔法陣を床に置くと、俺はその前に立った。

 胸を張って堂々と立つ俺に、総合指令室の全視線が集中する。


 この大事な場面で何やってんだこいつは?

 頭おかしいのか?


 そんな感じの(いぶか)しむような視線だ。


 なにせ今までも何の役にも立たなかったくせに、なぜか重要人物であるかのように総合指令室にいて。


 さらには突然、心が叫んでいるだの本当の気持ちがどうだの喚きだしたかと思ったら、宇宙からエリカを召喚して助けるとか言い出したのだ。

 スタッフがそんな視線を向けてくるのも当然だろう。


 科学の最先端たるロケット発射場で「宇宙からこの場に女の子を召喚する」なんて言い出すやつがいたら、誰がどう見たって頭がおかしい人だもんな。


(でもそれがなんだってんだ? エリカを救える可能性があるのなら他人にどう思われようが知ったことかよ!)


 俺は俺に集まる好奇と失笑と冷笑が入り混じった視線を意に介することなく。

 世界を救う勇者らしく堂々と胸を張って、究極転移呪文を唱え始めた――!


『我は神の創造(つく)りし天秤を傾けし者』

『我は三千世界の(ことわり)を書き換えし者』


 総合指令室に俺のオリジナル魔法の詠唱が朗々と響き渡る。


幾千幾億(あまた)の世界を歯車に、今ここに我は神の天秤を傾けん』


 これは数多ある異世界=神が審判を下すために使用する天秤の歯車ととらえ。

 そこに干渉して神の力を代理行使するという、俺の一番お気に入りの呪文だ。


『回り転がり流転す世界に、我指し示すは無二なる座標』


 待っていろエリカ、今助けてやるからな。


『我は欲す、我は願う』


 思いを込めて、願いを込めて。

 俺は言の葉を紡いでいく。


『我が召喚に応えよ世界! 我は運命すらねじ伏せる者なり!』


 俺はカッと目を見開くと、最後の言葉を解き放った!


『ここに開け、世界の扉よ! オープン・ザ・ゲート! アルティメット・サモン!』


 朗々と紡がれ完成した究極転移呪文。


 しかし。

 実際に何が起こるでもなく、総合指令室は静まり返ったままだった。


 むしろさっきよりも空気が白々しい。

 最後のお別れもせずに何を馬鹿やってんだこいつは、みたいなうすら寒い空気が漂っている。


 もちろんエリカはいない。

 究極転移呪文は無様なほどに失敗した。


(でもそれがどうした? たった1度の失敗で諦めるほど、俺のエリカへの思いは安っぽいもんじゃないんだよ――!)


 そうさ、今のは俺の想いが足りなかったんだ。


 そもそも物理法則を無視して呼び寄せようってんだ。

 そんなもん、生半可な想いじゃ成し遂げられないに決まってるだろ!


 だから俺よ!

 エリカを助けたいともっと! もっと! もっともっともっと!!

 心の底から願ってみせろ!!


 この瞬間に全身全霊をかけてみせろ!


 俺は更なる決意を心に誓うと、再び究極転移呪文を詠唱しはじめた。

 

『我は神の創造(つく)りし天秤を傾けし者』

『我は三千世界の(ことわり)を書き換えし者』

『幾千幾億の世界を歯車に、今ここに我は神の天秤を傾けん』

『回り転がり流転す世界に、我指し示すは無二なる座標』

『我は欲す、我は願う』

『我が召喚に応えよ世界! 我は運命すらねじ伏せる者なり!』

『ここに開け、世界の扉よ! オープン・ザ・ゲート! アルティメット・サモン!』


 総合指令室に再び響き渡る究極転移呪文。

 しかし現実は非情で、またしても何も起こってはくれやしない。


「あの――」


 さすがに見ていられなくなったのか何事か言いかけた中野さんを、俺は自信満々の笑みを向けながら手で制すると、3度目、4度目、5度目と詠唱を繰り返していく。


 何度やっても何も起こらなくても。

 やっぱり異世界を救ったのは俺じゃなくて人違いだったとしても。


 それでも俺はエリカを救うために、究極転移呪文を唱え続けるんだ!

 俺にできるのはただただこれしかないのだから!

 これが俺が持つたった一つの可能性なのだから――!!


 さらにさらにと詠唱を重ねていくうちに、声が引きつりはじめた。

 喉がカラカラに乾燥していて、喉の奥が少し切れたのか血の味を感じている。

 ずっと力強く呪文を唱え続けているせいで、息も上がり始めた。


 既にエリカを映していた船内モニターは完全にブラックアウトしていて、エリカが今どうなっているのかは分からない。


 それでも俺は最初と変わらない――いや最初よりもはるかに声高らかに、究極転移呪文を詠唱し続ける。


 待ってろよエリカ。

 俺がすぐに助け出してやるからな。


 俺がお前を絶対に助けてやるから。


 ただただその一念を込めて、俺は究極転移呪文を唱え続けた――


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