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第56話 俺のせい

「ちなみにNASAはこの未知の鉱物をニュートロン・ジャマー・マテリアルと名付けたそうですわ。ですが今さら名前を付けたところで、どうしようもないですわね」


 ヒナギクさんが少し疲れたように呟いた。


「だよな……この危機を乗り越えられない以上、名前なんか付けても意味はないよな。っていうかそんな巨大なものが地球に近づいているっていうのに、なんで今の今まで気が付かなかったんだよ?」


「それもアトミック・ジャマー・マテリアルの特殊な磁場のせいだと聞いておりますわ。従来の観測方法では簡単には見つけることができないのだとか」


「なんだよそれ……SFアニメでよくある、物語に都合のいい状況や設定を生み出すための謎の架空物質かよ……」


 人型ロボットが戦う状況を作り出すためにいい感じの電波妨害を起こしてくれる、ミノフスキー粒子とかああいうやつね。


 ほんとよく考えられた神設定だけど、リアルでそういうご都合主義やられると笑えないからマジやめろよな……。


「事実は小説よりも奇なりですわね。そういうわけですので、今から36時間後に超巨大隕石アーク・シィズが地球に衝突し、この美しい水の星は未曽有の大災害に襲われ、人類は滅亡するというわけなのですわ」


「…………」


 感情を押し殺すように努めて冷静に言ったヒナギクさんのその言葉に、俺は押し黙るしかなかった。


 昨日も、一昨日も。

 エリカがこの世界に来て以来ドタバタ続きの濃密な時間だったけど。

 まさか3日目にして人類滅亡の危機に遭遇するだなんて。


 っていうか異世界から召喚しちゃった女の子との嬉し恥ずかし同居ラブコメじゃなかったのか?

 なのに実は悪の秘密結社と戦うワールドワイドなアクションものだった――と思わせておいて、よもやよもやの隕石直撃からの人類全滅エンドだよ?


 誰だよこんな馬鹿な話を考えた奴。

 頭おかしいだろマジで。


「世界がパニックに陥ることがないように、この情報は一般人には知らせないことになっておりますわ。と言っても、超巨大隕石が地上から肉眼で見えるようになればパニックは避けられないでしょうけれど」


 そしてヒナギクさんから話を聞いているうちに、俺はあることに思い当たっていた。

 それは昨日言われた『異世界主人公における運命交差理論』についてだった。


 主人公の周りにいろんなイベントや女の子、果ては厄介ごとが勝手に引き寄せられてくるという異世界学の理論だ。


「なぁ、もしかして俺のせいなのか?」


「と言いますと?」


「期せずして主人公になってしまった俺が、この悲劇を引き寄せてしまったのか? つまり俺が何とかしないといけないのか? ヒナギクさん! 人類が滅びかけているのは俺のせいなのかよ?」


「どうでしょうね、そこまでは分かりかねますわ」


 ヒナギクさんは優しい微笑みを湛えながら穏やかな口調でそう言った。

 しかし既に俺の中で確信めいたものが存在していた。


「下手な気づかいはやめてくれ。こんな馬鹿げた話が何も理由がないのに起こったりするもんかよ。正直に言ってくれていい、これは俺のせいなのか?」


「そうですわね、こうも立て続けに発生するイベント……絶対にゼロとは言いきれないでしょうね」


「そう……だよな。突然、超巨大隕石が現れて。それが天文学的な確率で地球に直撃するなんて、普通じゃありえないもんな」


 でもさ、だからって言って俺に何ができるって言うんだ?


 超大国のアメリカもロシアも中国も失敗したことを、ただの一般人の俺がどうこうなんてできるはずがないじゃないか。


 30過ぎ無職になにができるってんだよ……。

 なんで俺なんだよ……。


 事ここに至ってもあたふたするだけの俺なんかじゃなくて、もっと使える有能な奴がこの世界にはいくらでもいるじゃないか。


 映画みたいにちゃんと「できる奴」を主人公にしろよな。


 神様はなんでよりにもよって、ただ周りに流されるように生きてきただけの。

 人生の目的すら持っていない30過ぎ無職の俺なんかを、主人公として選んじまったんだよ……。


 主人公の座を与えられてなお、無力なままでいるしかできない自分の無価値さを再確認させられた俺は、惨めな気持ちのままうつむいた。


 しかしそこで、


「それでヒナギクさんは、今日はどのような要件でここに来られたのでしょうか? そのことをわざわざ伝えに朝5時に来られたわけではありませんよね?」


 エリカが突然そんな風に切り出したのだ。


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